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August 09, 2006

『時をかける少女』の中の博物館

『時をかける少女』 (dir. 細田守, 2006) を観てきました。なんかすごい評判良いので、水曜の1000円で。ほかにもっと観ないといけないものもあるんですが…。それはさておき、やはり評判どおりでした。とても良い出来だと思います。一服の清涼剤のような爽やか青春映画でした。うむ。

で、もちろん僕としては「魔女おばさん」芳山和子が修復家として働いてる東京国立博物館がどんな風に描かれるのかってのが一番気になるところなわけです(笑)。すみませんねじれてて。以下若干ネタバレあります。

どーんと本館正面が出てきたときにキタ! とか思いつつ観てたわけですが、芳山さん (以下なぜか「さん」付け) が研究室から呼び出された次の瞬間、うを!バックヤードが!と、かなり意表をつかれました。一瞬でしたが、あの雑然とした通路は本物です。取材にいらしてたんですね。本館の展示室は2階建てですが、職員のいるところは3層になってるんですね。で、その中2階をとおって、西側の階段を降りて1階の展示室に出て…いったはずなのに大階段を降りてきた。あれ?いやいや、そんなことは別に気にしません。映画ですからね。でもちゃんと結界のベルト外して通ったりして、細かいなぁ。すごいすごい。

しかし博物館での真琴さんには関心しません。あっ、エントランスでそんな大声出しちゃダメだよ!とか、ああっ、そんな作品のある机の前で脚立に座ってガタガタ揺らしたりしちゃダメだよ!芳山さん注意しないと!とかヒヤヒヤしてしまいました (するなよ)。もちろん、実際には研究員の姪っ子のあんな可愛い高校生が頻々と遊びに来るほどには、のどかな職場ではありません。はい。

でも研究室内には実際の特別展やなんかのポスターが貼ってありましたね。「ベルリンの至宝展」や中宮寺の「菩薩半跏像」の特別公開とか「伊能忠敬と日本図」とか。あの研究室は実在のモデルはないんじゃないかと思いますが、雰囲気はよく出てると思います。とはいえまあ、現実はもっと味気ないものではありますが。展示室の様子も、なんか異様なまでにリアルだなと思ったらちゃんと研究員が協力してたんですね。実在の作品とか結構映ってたし。

であの「白梅ニ椿菊図」。素人の僕が見ても、あれはかなり変わった絵ですよね。不思議。あの人物の顔は何かモデルがあるんでしょうかね。「何百年も前」ではいつごろのものかもわかりませんが、かなり古そう…。マットをつけて額装してあったので、当初 (または発見時) にどんな形状だったのかはわかりませんね。まぁ掛幅っぽい感じだけど、紙なのか絹なのか…。あるいはもっと大きな絵の残欠とかなのかも知れませんね (にしては四角いか)。ちょっとしか写らなかったけど、あれは仏画なのかなぁ。でも、あんなに中央に人物像があるのに「白梅ニ椿菊図」という名前というのも変わってますね。あるいは修理するまでよくわからなかったのかもしれませんが。あ、キャプションには今ならカタカナで「ニ」とはせずに平仮名で「に」と書くと思うので、その辺は演出ですね。あとあと、長期間にわたる計画的な修理であれば、展示室に「都合により現在展示していません」的な表示が出ることは実際にはないと思います。平常展は年中展示替えしてますから。(えーと、別に文句言ってるわけじゃありませんよ。映画はとてもとても楽しめましたから。念のため)

しかしあの絵が「この時代のこの季節だけ実在が確認できた」というのはすごい。それって、平常展の陳列作品の記録が何らかの形でちゃんと残ってて、それを彼はすげーマニアックな調べものして探してきてくれたわけですよね…。ありがとう (涙)。でもその後展示された形跡がないってことになると、せっかく修理したのにやっぱりあまり評価されなかったんでしょうか…。まあ「価値はまだよくわからない」みたいに言ってましたしねー。

とまあ、長々とねじれの位置からのレビューでした。博物館に限らず、学校や町並みも、河川敷 (荒川?) なんかも、どの場所もとても丁寧に描かれていて、好感が持てますよね。で、魔女おばさんに萌えちゃった人は是非東博へどうぞ (おい)。今はプライスコレクションの若冲が特別展で好評ですが、これから行かれる方に個人的に是非オススメしたいのは、今、本館で展示している酒井抱一の「夏秋草図屏風」です。これ、光琳の風神雷神図屏風の裏に描かれたもので、金地に対して銀地、雷神の裏には雨にうたれる夏草を、風神の裏には風に吹かれる秋草を、というとても凝った絵です。僕もまだ見てないんですが、この機会に是非、特別展とあわせて本館の平常展もどうぞ。

投稿者 ryoji : 10:31 PM | トラックバック