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February 26, 2007
『人間国宝 松田権六の世界』 @ 東近美
『人間国宝 松田権六の世界』 @ 東近美を、最終日に観に行きました。意外と、といってはなんですが、混んでて見るのに一苦労でしたが、行ってよかったと思います。芸大美術館に所蔵の作品はいくつか観たことがあるんですが、まとめて観るのには良い機会でした。
松田は加賀蒔絵の伝統に育ち、楽浪漆器や中尊寺金色堂の保存修復などを通じて古典を研究し、光琳を高く評価した人でしたが、そうしたバックグラウンドに関わる展示が導入にあり、そこから主要な作品の展示へと繋っていく形でした。東近美には結構収蔵されてるようなんですが、蒔絵福寿草文小盆(画像なし)という作品があって、これもかなり完成度が高いんですね。でもなんと16歳、高校生のときの作品なんだそうです。なんだよそれ…。まぁ7歳のときに手習いを始めてるそうなので、この頃もうすでに10年近くやってるわけですが。東京美術学校に進むころには、地元の加賀蒔絵の技法はほぼ習得していたといいます。
『草花鳥獣文小手箱』は美校の卒制です。鳥や兎、鹿が一斉に逃げまどう蓋外の意匠は、内側の獅子の一吼に驚く様子。しゃれてます。この卒制は満点をとったそうなんですが、「芸術に満点はありえない」と松田自身が返上を申し出たとかなんとか。
細やかな技巧はきっと、とてつもない根気と集中力が必要なんだろうな、と思います。『鶴蒔絵硯箱』の鶴の白い部分は、なんとウズラの卵の殻だそうです。普通はニワトリを使うらしいんですが、繊細な味わいが欲しかったとかで、2000個ものウズラの卵が必要だったそうで…オソロシイ。
この人の作品の魅力は、やはり図案だと思います。植物や鳥や動物が、とてものびやかに描かれていて、それが細かい螺鈿や研ぎ出し蒔絵の鋭さに、やさしい柔らかさを与えているように思います。かわいいんですよねー。僕は『鶺鴒文平棗』がとても好きなんですが、画像がなくて残念。なんつーか、うまいんですよ、絵が。松田の図案は絵画的というか。図案から色々な意味を読みとる楽しみがあるような、趣向性というようなものも、やまと絵の伝統からの影響のようですが。で、毎日つけていたという「図案日誌」も展示されていて、これも面白いものでした。ごく普通の手帳に、日々図案を書きつらねていたんだそうです。また写生をよくしたそうで、そういう鍛錬が、こんなのびやかで繊細な図案に結実してるんでしょう。
また大作『蓬莱之棚』(画像)は昭和19年、戦況が悪化する中で、最後の作品になってもいいというつもりで作られたもので、大変緊張感のある、しかしどこか浮世離れしたような、不思議な趣きのある作品です。意匠も亀山天皇の和歌を散らすなどして、趣向が凝っていて楽しませてくれます。ほかにも、時代碗の研究をもとに制作された一連の碗なども、ちょっとこちらは図版では魅力がよくわからないと思うのですが、よいものでした。たくさんの棗もどれもかわいらしかったし。
ちょっと残念というか勝手に期待してたけど観れなかったのは、工業製品との関りでしょうか。輸出用の高級万年筆に蒔絵をしたりしてたことがあるそうなので、そこらへんも観れればよかったなぁ、と。でもまあ、おなか一杯です。満足でした。