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明和電機展'98@箱根彫刻の森美術館[美術展]

いわずと知れた明和電機。中小企業スタイルで「製品発表会」や「製品デモンストレーション」を行なう、兄弟のアーティスト。ユーモアあふれるライブが功を奏してか、熱心なファンも(美術家にしては)多い。弟の土佐信道氏は僕の大学時代の先輩で、親しくしていただいている。アルバイトで手伝ったこともあり、まあ早い話が身内と言っていい。

今回の展覧会ではアトリエに遊びに行った時などに聞いてはいたものの、完成をまだ見ていないものが幾つかあったので、まずそれを見ることができたのは良かった。会場はそれほど広くなく、すべての作品が一望に見渡せる。こうして見ると各々の製品が明和電機というブランドイメージをもたせて戦略的にデザインされているのが良くわかる。クレバーである。会場には展覧会に先立って行なわれたミニライブのビデオが流されていた。これはやはりミニライブであって、軽く流している印象を受けた。展示されている作品には注釈はなかったが、もっとゴリゴリに解説した方が面白いのではないかと思った。

製品のうちの幾つかは現代美術らしいコンセプトをはっきり示すもので、他の幾つかは逆にただ観客を楽しませるだけの目的で作られているものだ。すべての製品を並べることで、このへんのコントラストもくっきりしてくる。もちろんそれほどハッキリしないものもある。リンゴを落す「ニュートン銃」などは、地球の中心を狙い撃ち、という解説が芸術的なコンセプトのようにも聞こえる。しかし、そのバカバカしさは冗談ともとれる。ここらへんがもっと混然としてくると、さらに興味深くなるかも知れない。

箱根彫刻の森美術館のコレクションとどうしても比較してしまうのだけれど、明和の製品は「偉大な芸術」からはほど遠いところにある。もちろんこれは明和に限ったことではないのだが、ではその魅力をどう評価すればいいのか、とちょっと迷ってしまう。実際、それぞれの製品は「製品」と呼ぶにはやはりボロい。やすりの跡とか切断面がところどころ生々しく見えてくるのだ。その生々しさが「ほのぼのした手作りのよさ」という俗な側面と、芸術作品としての価値 ─ アウラ ─ との間で微妙なゆらぎを見せているように思える。

また、今回は研修生のクワクボさんが作った「ビットマン」も発表されている。エレクトロニクスを全面に押し出した製品だ。新しい展開を予感させるものだった。

彼らに関しては知合いということもあるが、経済的な側面や観客の層からみるとそうとう特異な存在でもあり、注目している。個人的な好奇心から、彼らを美術史的に位置付けるとしたらどうなるか、僕なりに現在考察中である。Sony Music Entertainment との契約が切れるということで、今後の活動が心配されてもいるが、うまい具合に「やったもんがち、とったもんがち」を実践して欲しいものである。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/08/12$