Review [Index]
ミーチ兄弟のピンチ・ポンチ・パンチ@UPLINC FACTORY[パフォーマンス]
明和電機の別ユニット、ミーチ兄弟がプロデュースする「おとなの学芸会」。出演者がそれぞれの研究発表をおこなう。といっても宴会芸の延長のような芸の披露といったところか。

トリオ・ザ・科学の妙な間の漫才、岡崎太威の絶叫と悶絶の抱腹絶倒パフォーマンス。グラインダーマンは二人ずつの別ユニットでも四人でも、あの「グラインダーマン」とはうって変わった脱力ぶり。ミーチ兄弟はあまりにも「素」だったのが可笑しい。クワクボさんの一人ユニット、セーミツ・ドライバは教育テレビの理科の実験のようなことをストーリー仕立てと戦前のニュース映画のようなナレーションでスライドさせた、わりとかちっとしたもの。

見た目がそんなに面白かったわけではないのだけれど、僕が一番興味を引かれたのは、まるちゃんのお化粧パフォーマンスだ。鏡を見ないで化粧をして見せるのだが、観客の反応が面白かった。女性客が多かったのだが、眉を引くときには「えぇ〜っ!」、アイラインを引く時は「こわーい」、口紅をきれいに引いて見せると「上手ねえ」。僕は男性なのでもちろん化粧なんかしないわけだけれど、そうかそれは恐いのか、などと妙に新鮮だった。女性は女性として生まれるのではなく、女性になるのだ、というボーヴォワールの名言があるが、納得がいく。たぶん鏡を見ながら化粧をするときに、女性は男性の欲望が転移した視線で自分の顔を見ているのだろうが、鏡を見ていない彼女の視線は会場の一番奥を見ていたそうだ。そこでは化粧は視線によってではなく、習慣を記憶した手先の感覚と、顔の皮膚という自己の境界面の感覚で行なわれていたわけだ。もしも常に鏡をみないで化粧している女性がいたとしたら、その人の性差観は全く違ったものになるかもしれないな、などと彼女の意図などそっちのけで考えてしまった。

もう一つ衝撃的だったのが、一通り発表が終ってからのオークションだ。出演者がもちよった品々を観客に対してオークションにかけるのだが、ものによっては結構な値段にまでつり上がる。200円から始めたクワクボさんのテープは15,000円、中古屋で1,000円で買って穴まであいた土佐さんのギターは一曲つけて31,000円。これこそフロイト的なフェティシズム、欲望のインフレーションをまのあたりにしてしまった。

どの研究発表(というかネタ)も肩肘はらないリラックスしたものだった。いつもいつも力んでいる必要はないのだ。これからも時々こういうテキトーな企画をやってくれるといいと思う。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/08/16$