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"TAXi"[映画]
カー・チェイスのコメディ仕立てロマンス添え、とでも表現したくなる、出来の良いおやつのような映画。フランス映画というと作家映画や恋愛映画のイメージが強いけれど、"TAXi" はフランスでエンターテイメントをやるとこうなる、という見本だ。まさにフレンチ・エンターテイメントの王道と言えるかも知れない。

もう少し具体的にいうなら、どんなにスリリングな展開や激しいアクションがあっても、そのパワーだけで最後まで押し切ってしまうということは、絶対にない。底抜けのあかるさとナンセンス、肩の力がフッと抜けていく瞬間が必ずある。それは例えば中盤のド派手な銃撃戦の後や、クライマックスであるカー・アクションの結末を見ればわかるだろう。

そうそう、何はさておきカー・アクションである。これは本当にすごい。マルセイユ市街をサーキットと化した猛レースだ。監督からして元レーサーだし、スタントには元 F1 レーサーを起用したというのがうなずける。狭い街路から高速道路まで、プロの技を見せつけてくれるのだ。一般の車をスリップ・ストリームでごぼう抜きにしていくシーンや、車幅スレスレの坂道を駆け上がるシーンなどは圧巻。画面や車体の微妙なブレが、単なるスピード感ではなくて「機械のパワー」みたいなものをひしひしと感じさせてくれる。CG を使ったりすると、この感じは出ないんじゃないだろうか。

僕は自動車免許をもっていないし、車のことは良く知らない。でもプジョーがフランスの車でメルセデス・ベンツがドイツの車だってことぐらいは知っている。悪役たちのベンツ(強盗団の名前もずばり「メルセデス」) vs. 主役たちのプジョー(ボンドカーばりの改造車)、というわかりやすい構図があるわけだけれど「なに、メルセデス?へぇ、ドイツでも自動車なんか作れるのか」なんて過激なセリフも飛び出す。刑事の上司が「俺の祖父さんは塹壕で死んだ」と言うあたり、戦争を忘れてはいないのだけれど、それをギャグにしてしまえるのは日本人としては羨むべきことかもしれない。もちろん、主人公の相棒であるヘボ刑事 Emillien が思いを寄せる、スゴ腕の美人刑事 Petra がドイツ人だったり、そういうフォローはきっちりしているのだけれど。

もっぱら "Speed" と比較されることが多いようだけれど、地中海の明るい光といい、ユーモアとテクニックの配分といい、僕はクーパーがローマを走る「ミニミニ大作戦」(原題等は失念した)を思い出した。

製作・脚本の Luc Besson は "The Fifth Element"(1997) でそれまでの "Nikita"(1990) や "Leon"(1994) のような作風から、さらにエンターテイメント性をより強く打ち出してきている。"The Fifth Element" では Besson ならではの良さ、というものが見えにくくて、どうなることかと思っていたのだけれど、今回の "TAXi" を見て、これはやはり次回作も見ようという気にさせられてしまった。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/08/23$