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"to the Living Room" @ ワタリウム美術館

以前ワタリウム美術館でやった「水の波紋」展は見ていないのだが、 こういう美術館の外に出ていく志向の企画は面白い。 今回僕と一緒に行った女の子もそうだったのけれど、 美術館にあまりいかない人というのは、美術館に敷居の高さを感じているからだ。 といっても、このワタリウムが敷居が低いということではないのだが。

2階の Fabrice Hybert の展示では、天井から1ダースほどのブランコが 吊り下げられている。「立って乗ったり強くこいだりしないで下さい」という 注意書きが気がきいていると思った。乗ってもいいというのがはっきりわかるからだ。 逆に「ご自由にお乗り下さい」と書かれていたり、監視人(というのだろうか)に 声をかけられたりすると、「参加型」の興ざめ感に襲われてしまう。 座版に妙な突起のついたブランコだけれど、大きな窓のある部屋でブランコに乗るのは 結構楽しい。部屋の中にブランコが欲しくなった人は少なくないはずだ。

Christine Hill のインスタレーションは、彼女が東京で感じたものの コレクションといったところ。街頭で見かけるポスター、ステレオタイプに ついてのテクストなどと共に、彼女が東京をまわる様子を収めたビデオが 流されている。ソファや花瓶などが「居間」風に配置されている。 多分この展覧会で最もコンセプチュアルな作品だ。 土産ものをかざる部屋を、その旅先(つまり東京)に直接作ったという感じか。

僕が一番期待していたのが有馬かおる。 美術館の近くのアパートに会期中彼が住んでいて、そこで作品が展示されている。 観客は地図と鍵を渡されて、アパートに行く。すると作家が中にいて、 ドローイングを見せてくれる。まったく普通の部屋で、生々しいくらいだ。 けれど、いきなりそんなところに行ってそうそう寛げるものではない。 客が次々に入ってきて、狭くなったので、僕達は作家とろくに話もできないまま 出てきてしまった。疲れているのか、彼もあまり話に乗ってこなかった。 なんだか消化不良だ。この企画と彼のドローイングとのつながりもよくわからないし。 期待していただけに、ちょっと残念だ。 ただ、会期終りまでだいぶあるので、その間にどんな変化があるのか 見てみたい気もする。

Navin Production の作品はコミックブック。B級センスの漫画で、 「マイペンライ東京」というタイトル(マイペンライは大丈夫の意)だ。 「マイペンライ」マン(?)というちっともカッコ良くないお気楽ヒーローもの。 ちょっとヘタウマっぽくて、とってもキッチュ。 全十巻で、一冊だけ受付でもらえる。他の巻を買うこともできる。 漫画そのものもなかなか面白いし、 3階の展示室の屋台がよかった。漫画の他の巻も読めるし、 16:00からこの屋台でカクテルが飲める。僕は "MAI PEN RAI-Power" という一番強いカクテルを飲んだ。味は濃くてなんだかよくわからない、変な味。 屋台に並んでいた酒を片っ端から混ぜていたように見えたのだが…。 カクテルを作ってくれるお姉さんもとても気さくだったし(これ重要)、 居心地はよかった。

全体として、リラックスさせようという配慮はうまく行ってると思う。 作品の質が必ずしも高いとは言えないと思うけれど、こういう形で 美術館というパブリックな場所で Living Room について考えるのも面白い。 私的なものに言及する方法は、自画像だけではないのだ。 以前板橋区立美術館で行なわれた「私美術」展と比べると、そのコントラストが とても鮮やかだ。

ところで蔡國強の作品が見当たらなかったのだけれど、どういうことなんだろう?


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/09/15$