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"CUBE" [映画]

Rubic's Cubist にして Sol le Witt ファンの僕としては見ないわけには いかない映画であった。といっても共通するのは立方体だけだけれど。 (もちろん Sony PlayStation の "I.Q." にもハマった) いや、大事なことである。立方体はグリッドと同様、今世紀の芸術における 重要なモチーフだと思う。

目覚めると、そこは立方体の部屋。6面の壁にはそれぞれハッチがついている。 どのハッチの向うも同じ部屋だ。そして部屋によっては 殺人トラップが仕掛けられている。出口を求めてさまよう登場人物たち。
「全く新しいデジタル感覚のゲーム・ムーヴィ」というキャッチコピーと 裏腹に、かなりシリアスな物語だ。 確かに人物たちの役割分担(数学専攻の学生、医者、脱獄常習犯など)は R.P.G. のようだが、彼らは最後まで協力し合うわけではない。 閉塞的な場所でもがく人間の 極限状態を厳しくあぶり出している。敵の姿はなく、目的もわからない 不条理な状況設定、いけどもいけども同じ部屋ばかりな上に、 ひどい罠が仕掛けられている。この空間の閉塞感と不安、疑念から、 人間どうしがトラップになっていく。

こうした物語の緊迫感や謎解きのプロセスももちろん面白いのだが、 やはりなんといっても CUBE 自体のもつ空間の面白さが際だっている。

画面に現れる空間は一辺が 4メートル強の狭い部屋だけだ。しかし となりもそのとなりも同じ部屋が続いているために、 無限に広がる空間を想像させる。このコントラストがとても効果的だ。 6面すべてが同じ壁面だし、上下への移動も少なくないので、3次元的な 広がりがある。
外壁の存在が明らかにされた時点で「一番端はどうなっているのか」 が当然気になるのだが、実は部屋は動いていた。外壁との間には広い隙間が 空いていたのだ。この辺の処理はなかなかうまい。すべての部屋がちゃんと同じ ユニットになっているのだ。

トラップの有無の手がかりになる数字は、同時にユニットの動くパターンも 示していたりして、パズル的にもかなりできが良い。 妙な神話や物語の背景に頼らずに、論理だけでパズルが構成されているのは、 Rubic's Cubist にはたまらない趣向だ。 物語的にも敵や陰謀、彼らがそこに放りこまれた理由などは無く、 空間と人間ドラマに強く焦点をあてるとともに、観客の想像力を 刺激するようだ。時代さえはっきりとは示されない。 ある種の純粋性への志向が感じられる。

『天空の城ラピュタ』の城の下半分がやはり立方体で構成されていて、 僕はそれを思い出したのだが、Natali 自身は『2001年宇宙の旅』や、 "THX1138" に影響を受けたと言っている。

宇宙戦争とか人類の危機とかだけでなく、こういう気のきいた SF 映画がもっとあってもいいと思う。

$Date: 1998/09/27$


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>