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David Lodge 『小説の技巧』 [書籍-文学]

コンピュータ関連の書籍をたくさん読むようになってから、 良い入門書というものがいかに貴重かということが身にしみている。 (コンピュータ関連の入門と書かれた書籍はひど過ぎる) どんな分野であれ、それまであまり知らなかったことに興味を抱くのには、 良い入門書を楽しく読むということが、大きな助けになる。

本書は小説の技術的-技巧的な側面に絞った解説だ。 僕は小説に関しては結構古風な好みで、最近の、しかも欧米の文学には 親しんでいない。最近どころかほとんど W. Somerset Maugham ぐらいで止まっていると言ってもいいくらいだ。 しかし小説というのは玉石混交で、どこから手をつけていいものかわからなかった。 そこへ本書がいいと聞きつけて、早速読んでみた。

「作者の介入」「視点」「間テクスト性」「寓意」などの 50のさまざまなポイントから、小説の楽しみ、その技巧、 他の技巧との関連性、ちょっとした背景、などなどを実例の短い引用をまじえて 鮮やかに教示してくれる。引かれるのは古典から現代の小説、 また Lodge 自身の作品までと色とりどりだ。 それぞれの章は 5ページ程度とごく短くて、拾い読みするのにもってこい。 また、ちょっと気になることがあった時にも気軽に開ける。 なによりも解説の文章自体が読んでいてとても心地よい。

訳者の「あとがき」が、この本をとてもうまく説明している。

…『小説の技巧』は、まさにそうした技法上のショートカットコマンドを 満載したありがたい本である。

ここで引用されている小説を片っ端から読んでみたい気分に駆られるわけだけれど、 一番読みたくなるのは、やはり David Lodge 自身の作品だ。
そう仕向けてあるわけではないのだろうけれど。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/10/02$