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『美術と演劇 ─ ロシア・アヴァンギャルドと舞台美術 1900-1930』 @ 横浜美術館 [美術展]

演劇のことはほとんど知らないのだけれど、ロシア・アヴァンギャルドだという だけで見に行ってしまった。それでも Sergei Diaghilev の Ballets Russes の名前くらいは聞いたことがある。今世紀初頭の舞台芸術の大物プロデューサー、 Igor Stravinsky を世に出したとか、そのくらいだけれど。 もっとも、Diaghilev がどんな仕事をしたか、どれほどすごい面子で 舞台を作り上げたかだけでなく、 今回の展覧会ではロシアで仕事を続けた他のグループの紹介にも力が入れられて いたわけで、僕にとっては二重の驚きだった。

展覧会はまず、ロシアの美術の流れを簡単に紹介するところから。 Rayonism、Suprematism、Constructivism など。 それから Ballets Russes、その次から Tairov の Chamber Theater や、あるいは Meierhold Theater、Pupet Theater、さらにキャバレーやサーカスなど 幅広く舞台・演劇にかかわる運動を、デザイン画を中心に展示している。

面白いと思ったのはそれらの衣装デザインや舞台装置のスケッチが とても絵画的だったこと。Natalia Sergeevna Gontcharova の衣装デザイン画なんて、 ステンシルでとても色彩豊か。シャープな線と表情豊かなポーズで、 そのままトランプにでもしたいくらいだ。 Liubov Sergeevna Popova のデザイン画はキュビズムというか未来派というか。 普段目にするファッションのデザイン画とはあまりにもかけ離れていて、 これ、どうやって衣装にするんだろう、と考えてしまった。

もちろんロシア・アヴァンギャルドの美術の有名どころのデザインもある。 Rodchenko の舞台も構成主義といったらこれだよ! これ! って感じだし、 Malevich の衣装デザインも一目でそれとわかる特徴的なもの。 ガクガクに角張った衣装なのだけれど、この『太陽の征服』というオペラは 再現された舞台のビデオを会場で流していて、そのなかではきっちりデザイン通りの ゴワゴワの衣装でカクカク動く俳優がでてくる。ううむ、これが未来派オペラか。 (「未来派の怪力」という役があったりする)

そして Papet Theater でも同じ『太陽の征服』の人形劇が計画されていて、 こちらは人形のデザインを El Lissizky が担当。デザイン画はほとんど Proun。 ほとんど人体が解体されていて、かっこいい。 結局実現しなかったのだけれど、これが立体になったらどんなだろうと 想像するだけでも楽しい。

見所はデザイン画だけではなくて、数々のポスターも魅力的だ。 ほとんどタイポグラフィーのみで構成されたシンプルかつダイナミックな グラフィックス。とてもクールだ。

20世紀前半の数々の前衛、ダダや未来派、そしてバウハウスの Oskar Schlemmer と、この時期の美術は演劇と深い関わりをもっていた。 特に構成主義では、機能が構造を決定し、造形言語の理論が美的価値を裏付けし、 やがては全体的な生へと統合されると考えられた、理想に燃えた時代だったのだろう。 大量のデザイン画からは、その熱意が伝わってくる。

87作家による351点、見ごたえは充分だ。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/10/04$