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『加害/被害』 @ 板橋区立美術館 [美術展]

実際どうなのかわからないけど、いかにも人の入らなさそうな企画ではある。 こういう企画はやはりきちんと公共の美術館でやってくれないと。 そういう意味では板橋区立美術館の Art in Tokyo は意欲的なシリーズだ。

今回の展示では第一部として 「戦争」にみられた美術の「加害/被害」、 第二部が 社会制度や社会生活にみられる「加害/被害」、 そして第三部で 「視覚器官」への働きや「美術の制度」からみた「加害/被害」、 という三部構成だ。内容はそれぞれのタイトルの通り。 第一部で山下菊二の「(反)天皇制シリーズ」や香月泰男のシベリヤ・シリーズなど、 第二部は Bu Bu + 嶋田美子のフォトコラージュ「訓練」や原仲裕三の 臓器自販機 "to the Children of 21st C." など。 さらに第三部では堀浩哉の「観賞拒否」や牛波の「泉水」。

会場構成がそれら三部に明確にわかれていないため、どこからどこまでが 第一部なのか、といったことがわかりにくかった。 もうちょっとどうにかならないのだろうか。それから、 会期中にパフォーマンスも行なわれるのだけれど、せめてビデオくらい展示 して欲しい。カタログに写真が一枚載ってるだけで、説明もほとんどない。

しかしなんといっても不満なのは、戦争体験から制作された作品を集めた第一部と、 残りの第二部・第三部のつながりがよく見えてこないということだ。 特に第三部の作品は「加害/被害」で見るのはかなり苦しい。 たとえば鳥光桃代の「宮田二郎」がらみのビデオ作品について、カタログの文章には

これらの映像は異相の現実を提示することによって、見る側の現実を困惑させ、 リアリティの概念を突き崩す。その後メディアに新たな共犯としてのリアリティを もたらしてしまう「加害/被害」を孕ませる。
とあるのだが、いま一つ納得がいかない。

単に戦争画の展覧会ではなく、最近の作品まで射程に入れるならば、 そうした問題意識を現在の僕達がどのように引き受けていくのか、 を中心にしていくべきではないだろうか。 第一部とその他にこれほど距離があっては、なかなか「当時のできごと」の枠を でていかないように思う。戦争をきっかけにした絵画の「私憤」の強烈さに対して、 他の作品はいかにも貧弱だった。 少なくとも「加害/被害」という視点で見るかぎりでは。

他者との関わり合いを「加害/被害」という視点で捉え返すという意図はわかる。 しかし個人的には「害とは何か」が何よりも問いなおされるべきなのでは、とも思う。 その問題設定の枠組自体を、そもそものはじまりから。 それは暴力と同義なのか、だとしたら暴力とは何か、それはどのようであり、 またありうるのか、といった地点 ─ つまり基底面 ─ まで踏み込んでいく可能性が 芸術にはあると僕は思うし、そうでなければ芸術という場で問題提起することに、 なんら特別な意味はなくなるだろう。
この展覧会では戦争や犯罪のおぞましさだけが印象に残って、 僕自身に結び付いてくるものはあまり感じられなかった。

ところでカタログの解説の文章だけれど、校正の時間も取れなかったのだろうか。 脱字がやけに目立つのだが。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/10/10$