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タムラサトル展 @ 現代美術制作所 [美術展]

去年の東大駒場寮のコマバクンストラウムでの個展以来の タムラサトル の個展。今回もバカバカしさが炸裂している。思い出すだに笑える作品だ。 しょうがねぇなあ、もう。

"Standing bears go back" は、見上げるほど大きな クマとコグマを連結してレールの上を走らせるもの。親グマのどてっ腹には風穴が 3つも空いていて、プロペラがセットされている。じわじわ前進したクマが レールの先端で止まり、わすれたころに爆音をあげて後ろへさがっていく。
同じくクマをモチーフにした作品「背中のない熊は後退する」は サックリ背中を切り取られたクマの上にプロペラが並んでおり、 これも凶悪な音を立ててレールの上をさがる。決して突進しない。後ろに行くのだ。

コマバクンストラウムではワニが猛烈に回転していたが、 このシリーズ「スピン・クロコダイル」の作品もあった。全身オレンジに 塗られ、頭から尻尾の先まで3匹ずつ串ざしにされたワニが2列。片方の串だけ すごい速さで狂ったように回転している。 ワニの回転体が見たい人はこれを見るといい。そんな奴いないだろうけど。

初日で準備が充分でなく、機構が完全に動作していなかったのはご愛敬か。 まあ、それを云々しても仕方がないとは思うが。

これほど単純にバカバカしい作品を作る作家もめずらしい。あまりにあまりなので 作品について考えるのもバカバカしくなってくるのだけれど、 実は結構器用なことをやっているような気がする。 クマやワニは「力強い生き物」として選択されているわけだけれど、それに動力を つけてダイナミックに提示しながら、結局笑うしかない物が出来上がるというのは、 良く考えれば不思議ではある。力強さが可笑しみへと巧みに方向転換されているのだ。 プロレス的変換とでもいうか。力めば力むほどに笑える諧謔だろうか。 そしてこれは、作家がプロレスマニアであることと 無関係ではないだろう、と思うのだが。
可愛いらしい外見から一見いわゆるポップアートと似ているように見えるかも 知れない。しかし 90年頃から登場している日本のポップアート(例えば村上隆や太郎千絵蔵)と 一線を画している点は、全く内容がないところだ。無対象芸術ならぬ 無内容芸術。爽快である。これを自律的と言わずして何と言う?

タムラは僕の大学時代の同期でよく知っているのだが、とても魅力のある人物だ。 彼を知っていれば作品をより楽しめると思う。そういう意味で、 ギャラリートークなりシンポジウムなり、彼が人前で喋る機会を持たせると いいんじゃないだろうか。真面目な話は絶対しないだろうけど。

とにかく、美術を見ると眉間にシワが寄ってしまう人には、是非見て欲しい。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/10/25$