1994年に同館で開催された『<素材>の領分』展の姉妹展。 学芸員の樋田さんのギャラリートークを聴講しながら見た。専門家の話は勉強になる。
最先端の彫刻家が器のかたちを作品に採り入れていることから、
器物のかたちが造形のいわば「原型」として見直されてきてるのではないか、
という視点からの企画。第一部を「機能美の成立」として Bauhaus のデザイン、
1930年代の日本の工芸 ─ モダンデザインの影響をうけた工芸、茶道具における
「見立て」の美学、さらに柳宗悦の蒐集した民芸品を展示している。
第二部は彫刻家に分類される作家が器物の形態を採り入れた作品をみせる
「機能美の転生」としている。
特に面白かったのは茶道具の「見立て」だ。片口の口の部分をつぶして茶碗にして
しまったり、鼓(つづみ)の胴を花入れにしてしまったりする自在な転用は
とてもウィットに富んでいて楽しい。
現代作家の中では Giuseppe Penone の「息吹No.7」が面白い。
壷型のテラコッタに自分の体を押しつけた跡をつけている。ちょうど等身大くらいの
壷で、口の中や舌のあとまでついている。一見して、昔デッサンの練習に使った
牛の頭蓋骨を思い出してしまった。
作家の選択のせいか、個人的には「原型への回帰」が偶然以上のものだという 説得力にはやや欠ける感じがした。むしろ、日常雑器が芸術になってしまったり、 技術的には特異なものではない現代美術の作品が非常に高価になったりする不思議さ のほうが印象に残っている。ギャラリートークを聞いていた他の人達にも、 値段の話が最もわかりやすかったようだ。