Joaquin Ivars "SPACES FOR VANISHING"

Joaquin Ivars は初めて聞く名前だった。現代美術製作所での展覧会と同時に 京都の西陣北座でも展示をしているようだ。こういう企画は、なかなか両方見ることが できなくて悩ましい。

現代美術製作所では「消滅する空間」としてシンプルなものを配置した、とのこと。 広い方スペースでは黒いガムテープを床や壁に貼って、破線で空間を仕切るような インスタレーション。破線にはところどころ小さな出っぱりがあって、そこに 現地調達したビーチサンダルがおかれている。一つ一つの囲いの大きさは、まちまち だが人ひとりが寝そべることができるくらいか。プライヴェートな小さな部屋、 といったものを思わせる。また、床だけでなく壁にも破線があるために「仕切り」が 空間的に想像できて面白い。破線の途切れた部分を見ながら、僕は高校のときに習った 細胞膜の選択的透過性のことを思い出した。

奥のスペースでは等身大の人型にシーツをかぶせたものと、ビデオが展示されている。 人型の方はなんだかよくわからない。ビデオは、Ivars が大阪の京橋駅前で行なった パフォーマンス。地面にガムテープで破線の囲いを作り、その中に彼がいる。 口にガムテープを貼って沈黙している様は、何かの行者のような感じだった。 回りに人が集まっていて、警官とのやりとりもあったようだが、詳しくはわからない。 ハプニング的ではあるけれど、かなりおとなしくてストイックな雰囲気だった。
ただ、ビデオが5秒おきに途切れるのが「破線を意味している」というのは、ちょっと 無理があるかもしれない。

破線のビーチサンダルや人型の「わからなさ」が妙にひっかかる。会場にあった ポートフォリオを見ると、破線と何かしら日常的な物体の組み合わせで インスタレーションを作ることが多いようだ。ばらばらの要素を組み合わせても、 対立や意味の劇的な異化ではなくて、もっと もの静かな変化を起こしているようだ。 他の作品も見てみたい。


Review 1998 [Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/12/14$