ホンマタカシ「東京郊外」

_CUTIE_ 、_H_、_SWITCH_、などの雑誌で仕事をし、最近ではショート・ムービーの シリーズも制作しているという写真家ホンマタカシ。 僕は全く知らなかったのだけれど、結構有名らしい。

この写真展では東京近郊のいわゆる「ニュータウン」を対象にした写真を集めたもの。 風景だけでなく、そこにいる少年たちが写されているのもある。

個人的な話だけれど、僕の実家は田舎だが、新しく造成された宅地で、僕が そこへ引っ越した時にはまだ半分くらいしか家が建っていなかった。高校を出るころ にはそれが一杯になるくらい、目の前でどんどん住宅が作られていたわけだ。 そういう場所で、例えば天気のいい午後に周囲をぶらぶら歩いてみると、 奇妙な静けさに気がつく。平和ではあるものの微妙に不穏な感じがするのだ。 まあ、たぶん隣人との接触の少なさとかが、そんな印象の原因になってるのだろうとは 思う。でもそれで納得したところで、その不気味さが消えるわけではもちろんない。

不穏と言ったけれど、緊張感があるのではなくて、徹底した弛緩があると言った方が 近いと思う。そこには統一感のない住宅が並んでる。妙に清潔で、人気がない。 あるいは、不意に聞こえてくるテレビの音声(耳の遠い老人でもいるのだろうか)。

写真の中の少年たちの顔はぼおっとしている。そのぼおっとした表情は、 郊外の風景の焦点のなさと呼応しているようだ。実際、郊外の風景を撮った写真には、 少しもフォトジェニックなところがない。しまりがない。弛緩している。 リアル、というのとは少し違う。意図的に焦点がずらされているようなのだ。 カメラのピントは隅々にまで合っているのにもかかわらず。 なまなましいのだが、何も起こらないなまなましさとでもいうか。 記憶の空白の部分を見ているような感じがした。 それはどんな場所であれ「対象に焦点をあて、画面をつくる」というドキュメンタリー 的な視線や博物学的タイポロジーの視線とは、相容れないものなのではないだろうか。


Review 1998 [Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/12/23$