『日本のおしゃれ展』

江戸末期から昭和初期までの きもの のコレクション展。 僕は きもの のことはほとんど知らなかったのだが、なにしろ大胆なデザインの きもの が面白くてとても楽しめた。

きもの は形態が限られているのだけれど、その分図案に対するすさまじい 情熱が伝わってくる。実に多様な主題と表現力、超絶的な技巧の意匠、いき な遊び心など、非常に洗練されている。
実をいえば、僕が きもの の図案に対してもっていたイメージはせいぜい 花鳥風月だった。しかしここには、世界一周を記念した飛行機柄の きもの や ステンドグラスを図案にしたものなどがあって、たいそう驚いてしまった。 アールデコ調の帯留めや、油彩のようなマチエールで描かれた帯などもある。 素材の美しさ、図案の信じられないほどの大胆さ、立体的な配置への配慮などは 見ているだけで充分楽しい。

きもの そのものからは、はっきりとは窺えないところではあるが、 カタログ(図版が良いので買った)の文章を読むと、明治期に きもの の絵画化が 進んだことや、アールヌーボーからの影響がパリ万博(1900年)によって 引き起こされたこと、大正期のデパートの出現やいわゆる「昭和元禄」期に 市場調査が採り入れられたことなどが、常に きもの のあり方に影響してきたこと が書かれていて興味深い。そして他の分野のデザインの例にもれず、 きもの のデザインも第2次大戦を境に断絶があるようだ。

会場には女性客が多くて、彼女らのおしゃべりが観賞の参考になってしまった。 さすがに詳しいし、僕とは違う見方をしていて面白い。また きもの を着ている 客もちらほら見えて、現代の きもの をそれによって窺うこともできる (かも知れない)。
見終ってから街にでると、僕達の服がいかに素材とフォルムに 力点がおかれているかがとてもよくわかる。 「柄」に対する感受性は大きく変化したようだ。

ただ、帯や帯留め、半襟までそろえてコーディネートした状態での展示は良い と思うのだけれど、所々安っぽい演出をしてるのがハナにつく。 変な BGM を流しているのもよくない。 というわけで展示の仕方にはいささか不満が残った。


Review 1999[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/01/10$