MOT アニュアル『ひそやかなラディカリズム』

MOT アニュアルは東京都現代美術館が新たに開始するシリーズ企画。第1回の今回は "Modesty" をキイワードにている。「ひそやかさ」をキイワードにする 企画は、もっと早く行なわれても良かったのでは、という感もあるのだが。 気になった作品を幾つか。

内藤 礼 のインスタレーションは、中央に立てられた数本の棒といい、壁に設置された ガーゼ状の枕といい、吹けば飛びそうな危うさ。ともすると見落としてしまいそうな、 床の隅をぐるりと囲むビーズも、とても繊細だ。息をひそめてしまうような 静けさがある。

高柳 恵里 の籐で作った家具を思わせる作品は、今回一番気に入ってしまった。 家具の断片のようでもあり、出来損ないのようでもあるのだけれど、 素材の扱いが素直で心地よく、軽やかでとてもかわいらしい。 また奇妙に貼りあわせた紙袋の作品や、絞って乾燥させた雑巾の作品も面白い。 ほんのわずかな作為で彫刻にしてしまうマジックは、俳句的ともいえそうだ。

トタンで作られた 吉田 哲也 の小さな彫刻も、力まない感じがなかなか魅力的。 素材のゆがみをそのままにして、無理なく形を作っている。

中沢 研 のインスタレーションは細い糸(テグスか?)で室内にグリッドを作っている。 空間に四角い仕切りを入れたような状態だ。中央に掛かっている布状の形も、 そうした仕切りを際だたせていて、意外なほどダイナミックだ。

『たそがれ地蔵建立』を継続している 小沢 剛 のインスタレーションは、 布団を高く積み上げた上に写真を設置したもの。靴を脱いで布団の山をよじ登るのは なかなか楽しい。シェードのついた電灯が家庭的。「地蔵建立」ともども 日常的な雰囲気だ。布団の山をくぐると天井にコタツのランプがあるのには、 なんだかウケてしまった。あれは巨大なコタツだったのか。

それぞれに共通するのは大仰さとは全く逆の方向だろうか。 小さく繊細で、わずかな作為を加えられた「もの」たち。作為の少なさや素材に 対する素直さは、かつての「もの派」を思わせないでもないが、「もの派」は これほど「ひそやか」ではなかった。脱-腕力とでもいうか、こうした静かで つつましい方向性の今後には、注目したい。


Review 1999[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/01/24$