"Donald Judd 1960-1991"

ミニマリズムの代表的作家、Donald Judd の展覧会。20世紀を代表する重要な 芸術家だが、その作品をまとめて見られることはそう多くないので、 いい機会だ。今回の展覧会は Donald Judd Estate と Judd Foundation の 協力を得たもので、これまであまり紹介される機会のなかった 初期のペインティングなども展示さていれる。

が、個人的には初期のペインティングにはそれほど興味がわかなかった。 また晩年のアルミ5点の大型作品にも、あまり魅力を感じることはなくて、 やはりよく知られた典型的な作品、つまり「スタック」や「プログレッション」 と呼ばれる作品群に惹かれた。「スタック(=積み重ね)」は同じ形の10個の 直方体が、壁から突き出して縦に重ねられている。それぞれのユニットの 高さと同じ間隔になるよう、ユニットとユニットの間隔があけられている。 各ユニットは薄い箱で、側面が陽極処理したアルミ、上面と底面が プレクシグラスで、すき間から覗きこむとプレクシグラスの面に壁面が 映りこんだり上下のユニットが透けて見えたりして、とても美しい。 アルミの陽極処理の透明感のある色彩とあいまって、ほれぼれする。 「買ってきたばかりでピカピカ」という感じ。

「プログレッション(=数列)」も規則的に並べられたユニットと空隙の 関係がとても理知的な感じがするのだが、サイズや素材の違いによる効果 の差も面白い。概して素材の違いは表面の視覚的効果を考慮して選ばれている ように思った。

Donald Judd に関しては、1960年代のもっとも重要な動向の一つとされる 「ミニマリズム」の代表的な作家ということで、これまで教科書的な 知識しかなかった。「非-物語性」や「非-メッセージ性」といった形容から、 もっと禁欲的なものをイメージしていたのだが、実際に見た印象で言えば、 むしろ快楽主義的に思えた。
作品点数が22点と少なめなので、やや欲求不満気味ではあるものの、 「スタック」の心地よさが味わえただけでも見に行った甲斐があったと思う。


Review 1999[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/02/22$