『時代の体温』

英文タイトルの "Domestic" は「国内」ということで、 日本のアーティストを集めた展覧会。特に「今の雰囲気をつきぬけるような 内なる衝動」あるいは「熱」を持ったアーティストが選ばれているようだ。 たしかにちょっと、暑苦しいかもしれない。

とにかく最も印象的だったのは、田中 敦子 の一連の抽象絵画だった。 初期の「具体」での活動、あるいは『電気服』のような作品で知られる 田中は、ベルを使った作品のドローイング以来、円と線で構成された 絵画の製作を続けている。去年の年末にユーロスペースでヴィデオ 『田中敦子:もうひとつの具体』 (岡部あおみ(dir.), 1998) を見て以来、田中の絵画作品を見たいと思っていたこともあると思うけれど、 実際とても美しいものだった。非常に明晰な思考を感じさせるし、 鮮かな色彩と表情豊かな線に見入ってしまった。
それだけに、まわりに 奈良 美智 の人形が置いてあるのはかなり邪魔に思えた。

東恩納 裕一 のテーブルクロスやカーテンを使った作品も面白い。 花柄の衣裳ケースの中にミラーボールを入れたり、カーテンと模様の入った ガラスを組合せたものは、僕が子供の頃によく見かけた物を微妙に異化して 見せているのようだ。こうしたデザインは、モダン・デザインが浸透していく なかで起きた変形によるものだろうか。実際、こういう悪趣味は 現在でも結構見られるもので、自分たちのダサさ加減を見せつけられている ようでもあり、痛し痒しという感じでもある。

「特殊漫画家」を自称する 根本 敬 のインスタレーション 『時代の体温・陰核 - 混沌の隣人たち』は、いわゆる「電波系」の 人々の博物的パノラマで、かなり異様な空気を発っしている。置いてある 資料などを読むと、彼等の強烈な意志が伝わってくるようだ。もちろん、 僕に理解できるのはたかだかその強さだけなのだが。

大竹 伸朗 の『ダブ平 & ニューシャネル』 は電動楽器による 自動演奏ライヴだ。安酒場のように混沌としたステージで大音量でがなりたて、 おまけに「ど演歌」まで一緒くたにして流れている。ものすごく やかましくて、インパクトは充分。

展覧会のまとめ方は僕には何だかよく判らない部分も多いのだが、これだけ 元気のいい (それだけは保証できると思う) 展覧会はそうそうないかもしれない。


Review 1999[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/03/02$