『呼吸する風景』

4月から転職して 東京芸大 先端芸術表現科 で働いているわけだけれど、ここの助教授に就任した 佐藤 時啓 が 参加している展覧会ということで、埼玉に行ってきた。

佐藤の写真は長時間露光で撮影しているあいだ、彼がカメラに向かって 光をあてて動きまわることで、画面内の風景に光の点や線が写しだされるもの。 幻想的、と言っても良いと思う。写真そのものはトリッキーなのだが、 しかけを知ったら知ったで追体験するような視点で見ることもできる作品だ。 このシリーズは以前から継続しているものだが、 今回は埼玉県立近代美術館で撮影した新作も展示されている。 壁面での展示では後ろからライトを当てているのだけれど、外光の入る吹き抜けを 利用した展示もあって、こちらは結構清々しい。
「天気の良い日に行ったほうが良い」と聞いていたので、 ああ、この展示のことか、と思ったのだけれど、違っていた。 写真ではなくてインスタレーションの作品があったのだ。 展示室の一角を区切って暗室が作られ、そこがカメラ・オブスキュラになっている。 ちょうど湾曲した大きな窓のところを使って、窓に3つのレンズが取り付けられていて、 窓の反対側のこれまた湾曲した壁面に外の風景が逆さまに投影される。 勧められたとおり天気の良い日を選んで行ったので、とてもくっきりした 映像を見ることができた。カメラ・オブスキュラの中に入るという経験は 初めてなので、カメラの中ってこんな空間なんだなー、と妙に見いってしまった。 特に、ビデオやフィルムのプロジェクションに慣れた目には 記録されていない ─ そのため媒体の解像度とは無関係の ─ 映像が 大きく投影されているという状況が新鮮だった。

長沢 秀之 は抽象絵画。よくわからない。絵画は難しい、と思った。

平田 五郎 のパラフィンワックスの部屋は、去年目黒区美術館での 『日韓現代美術展』 でも観たけれど、その時のものよりぐっとシンプルで、個人的には 今回のもののほうが好みではある。また人気のない場所に雪や泥で家を作る、 というフィールドワークの記録展示もあったので、 「隔絶された場所」というコンセプトを知ることもできた。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/07/31$