『恋スル身体』

宇都宮美術館に行ったのは初めて。「うつのみや文化の森」という自然公園の中に あって、とても綺麗な場所だ。バスが1時間に1本くらいしかないし、 レストランでディナーをとると最終バスの時刻があやうい、という難点もあるけれど、 それでも良いところだった。

なんでまた「恋スル」なんてタイトルがついているのかよくわからないけれど、 なかなか楽しめる展覧会だった。

最初の展示室にあった、砥綿正之+松本泰章の『歴史の天使』は 床にプラズマ・ディスプレイを配置し、中央にタワー状の電光掲示板のような ものが立てられている。ディスプレイには流れてゆく海面の映像が、タワーのほうには インターネットから採取されたというセンテンスがスクロールしている。 下から上にスクロールしてるのだが、 一番上の部分では文字が崩れてしまっている。
展示室をうまく使った配置で、爽やかな浮遊感のあるインスタレーションだ。 流れる海面の映像を眺めていると、滑空しているような気持よさ。 そしてディスプレイの細いグリッドと、電飾タワーの大きなグリッドが 共にそれぞれの縁の外側を想像させる。広がりを感じさせる作品だ。

中央のホールには椿昇の巨大なインコがぶら下がってる。 かわいいインコもこれだけデカいと異様だ。こういうのって悪夢に出てきそう。 筒井康隆の小説『パプリカ』に出てくる巨大な日本人形のことを思いだした。

夢、といえば やなぎみわ の作品もどこか夢に現われそうな情景だ。 (こちらもあまり楽しい夢ではなさそうだけど) 他の作品では眩暈のするようなきついパースの画面が印象的だったけれど、 今回は絵巻の形になっていて、横の拡がりがあって新鮮だった。 やなぎ の作品に現われる女性達はいつもぼんやりして、リラックスしているよう なのだけれど、でも制服を着ている。ステレオタイプで、でもきわどいところで 彼女たちにはうっすら表情がある。その微妙さが面白い。

そうそう夢といえば Studio Azzurro のインスタレーションも、 眠る男女約20人が床にプロジェクションされている。 カーペットの上に写しだされていて、その上を歩くと「うーん、うむむ」とか 声を上げて寝返りをうつ。ユーモラスな作品で、仕掛けの単純さと、 映像とはいえ無防備な人 (半裸または全裸で寝てるのだ) を踏みつけにする 居心地の悪さが印象的。
というわけで「夢つながり」な展覧会なのか?(それは僕だけか)

あと小杉武久の作品では、FM放送を変調してプラスチックの筒に入れたスピーカーで 鳴らしている。FM放送ということだったが、人が話していると覚しき音はまったく 聞こえなかった。ノイズの雰囲気は、不思議なことに森の中の ざわめきのようにも聞こえた。

というわけで宇都宮まで行った甲斐のある展覧会だったと思う。 近代デザインのコレクションも常設展示で見られるし、また行ってみたい美術館だ。


Review 1999[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/08/22$