1970年代にはソビエト体制に反対を表明する「ソッツ・アート」の一員で、 1980年代には欧米でもコンセプチュアルなインスタレーションで知られ、 また一方では絵本作家としても知られる Ilya Kabakov の個展。 今回は Charles Rosenthal という架空の作家の回顧展という形をとっている。
その Rosenthal の設定がいかにも興味を魅くものだ。 1898年にウクライナで生まれ、Malevich からシュプレマティズムを学び、 さらにパリに移った後1933年に死亡。 ちょうど Avant-Garde 運動と Rosenthal の活動期間が重なっているのだ。 が、Rosenthal はバリバリの前衛作家というよりも Avant-Garde 運動の 影響を受けながらも独自の展開を辿ったという設定になっている。 (ちなみに1933年なら処刑されたんだろうとばっかり思ってたのだけど、 交通事故ということだった)
Rosenthal の作品では写実と抽象との関係が大きなテーマになっているのだが、
設定を念頭に観ても作品があまり「それっぽく」ない。
Avant-Garde から一歩引いた活動ということではあるのだけれど、
ちょっと唐突な感じがするのだ。
「シュプレマティズムに関する8つの補遺」のシリーズでは、
印象派風の具象的な画面がシュプレマティズム風の構成の中に組みこまれている。
幾何学的な色面に塗られた色は具象的な画面で使われている色と同じで、
ちょうど具象的な画面とそのパレット、という具合になっている。
具象絵画での色面の構成から自律的な絵画としての抽象へ、
という解釈が現在のモダニズム観のひとつとしてあるからこそ、
こういう架空の絵を描くことができるのかも知れない、なんてふと思ってみたり。
第4室にある白地に鉛筆の下書きがなされたシリーズは、
部屋の真っ白な空間の浮遊感のようなものが、
だんだん描かれたものが判別できてくる、という見え方がして面白かった。
また、最後の Kabakov 自身としての作品が展示されている部屋に続く通路には、
今回の展覧会のためのドローイングがあって、これがなかなかカッコいい。
このドローイングが、メタ・フィクション的な世界から現実の Kabakov へと
無理なく引きもどしてくれたように思う。
ともあれ、物語的な面が強いぶん、 いろいろと想像力を刺激してくれる展覧会だった。 Kabakov の他の作品ももっと知りたくなってしまった。