『Gerhard Richter: ATLAS』

Gerhard Richter が40年近くにわたって制作しつづけている作品 "ATLAS" を紹介する展覧会。"ATLAS" が日本で 紹介されるのは初めてとのこと。会場には "ATLAS" に加えて絵画作品も 10点展示されている。Richter は僕の好きな画家なので、嬉しい。

Richter の作品の実物は絵画作品しか見ていなかったせいか、"ATLAS" という大作があることは知ってはいたものの、かなり Richter の印象が変わった。 絵画作品からはとても静かで理知的な印象を持っていたのだけれど、 大量の写真やスケッチからなる "ATLAS" は、とても装飾的に見える。 個々のイメージのサイズが小さいことや、壁一面に何列にもなっている 展示の効果もあるのだろうけれど。その名のとおりイメージの世界地図という感じ。 壮大。

風景は新聞の切りぬきや家族の顔、絵の具の拡大写真など、とても雑多な写真、 あるいは展示のプランのようなスケッチ。これらが、なんだか等価なものに 見えるのだ。というか、変な言い方だけど、ヴァルールが合っている。ような。 色だけのことではなくて、イメージの持つ重みがどれも同じくらいに見える。 しかもどの写真も結構面白い。

いくつか、絵画として見たことのあるイメージの元になった写真も見ることが できた。で、手元に _『ゲルハルー・リヒター 写真論/絵画論』(淡交社, 1996, ISBN4-473-01466-5)_ があるので、パラパラと見ていたら、 Hans-Ulrich Obrist によるインタヴューでこんなことを言っていた。

ほんとうはわかっているはずなんだけどね、絵を描くために写真を撮ろうとしても 絶対うまくいかないんだって。写真は、写真のために撮るのであって、 運がよければ、あとから絵になる写真を発見するんだ。描きうつす価値のある、 そういう特質をもつ写真が撮れるのは、幸運な偶然のように思える。(p.147)

Review 2001[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2001/6/1$