『ミニマル マキシマル ― ミニマルアートとその展開』

「とその展開」じゃなくて「とその影響」となっている英題の方が適切だと思う。 というのは、美術史用語としての「ミニマルアート」が指す範囲は諸説あるとしても (よく知らない。たぶんあるんでしょう)、完全にそこから離れている作家が かなり含まれているから。展覧会の主旨としてもミニマルアートが与えた影響を 再考しようというもののようだし。 「とその展開」はいかにも展覧会のタイトル風だけど、よくない。 展示のほうも、いわゆるミニマルアートの作品と、その影響を受けたと覚しき 作品とが特にハッキリとは分類されていないようだ。その辺が、この展覧会を ちょっと弱くしているかもしれない。

ミニマルアートの与えた影響、という形での展覧会は主旨としては面白いと思う。 でもたぶん、他の流れ ― 特に形式的には似たところのあるもの ― との相互の影響もどこかで見ていかないと、ミニマルアートだけが 特に絶大な影響力を持っていたかのように見えてしまうかもしれない。 テレビが四角いのもミニマルアートのせい、みたいな(違う)。

しかし展示されている作品にはかなり面白いものがあって、とても楽しめた。 例えば Mona Hatoum の _"Marbles Carpet"_ は 500kg もの ガラス玉を敷きつめたもので、是非寝っころがってみたい、みたいな 身体的な想像力をかきたてるものだった。あるいは僕の好きな Sol LeWitt の 作品が見られたのも嬉しい。

けど何といっても今回一番気に入ったのは Karin Sander の 『研磨された鶏卵』と『研磨された壁』。「鶏卵」の方は以前にも見たことが あったけれど、やはりこういうのが僕は好きだ。ただのニワトリの卵を徹底的に 磨きあげて、まるで大理石かなにかのように見える。つるつるぴかぴか、でも ただの卵で、たぶん中は腐っているのだろう。「壁」の方は、あまりにも さりげないので最初は作品とは気づかなかった程。展示室の一角の壁というよりは 柱の一部分が四角に区切られて、これもぴっかぴかに磨かれている。 何もここには加えられていない。ただ磨いただけ。このさりげない遊びというか、 この、なんというか侘まいがとてもいい。

楽しめた展覧会だっただけに、カタログが売り切れだったのはとても残念。 代わりに、というわけじゃないけれど、Felix Gonzalez-Torres の ポスターを一枚、持って帰った。


Review 2001[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2001/6/3$