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May 04, 2007
『イタリア・ルネサンスの版画』展 @ 国立西洋美術館
国立西洋美術館の企画展『チューリヒ工科大学版画素描館の所蔵作品によるイタリア・ルネサンスの版画―ルネサンス美術を広めたニュー・メディア』を観てきました。スイスのチューリッヒ工科大学が所蔵している版画のコレクションから、イタリア・ルネサンス期の版画を通じて、美術のメディアとしての版画を観ていこうという、まあかなりマニアックな企画といっていいでしょう。非常に濃い内容でした。というか、企画の内容に関心があればかなり楽しめるんじゃないかと思います。展覧会タイトルを観ても「それ何の話?」という人には全然オススメできません。というくらいマニアックですね。
絵画の一ジャンルとしての版画、という目で見るぶんには、何といってもデューラーがどれほどずばぬけた技量の持ち主かということが、まざまざと見せつけられる思いがしました。参考出品(なのでカタログには載ってない)として《アダムとエヴァ》が出ていて、これが同時代のヴェネツィアの(デューラーはヴェネツィアに行ってたので)版画家ヤーコポ・デ・バルバラのものなんかと並べてあったんですが、あまりにも密度も完成度も違います。エングレーヴィングの一本の線が版画に絵としてどういう効果をもたらすか、計算しつくしている感じです。版画的な表現というものに、相当意識的に取り組んでいたことが窺われます。
しかしデューラーほどの技量ではないとしても、イタリアの版画家たちのものもとても面白いです。展覧会の趣旨としてそういう見方ができるよう構成されていたのですが、版画によって絵のデザインが流通することによって、様々な構成や背景のパーツ、人物のポーズなどが、複雑に伝搬していくようすが見られて、大変興味深いです。版画の発達は印刷術の普及と時期的に重なりますし、そうして大量のイメージが各地へと流通していって、そこから画家たちが色々なパーツをサンプリングしたりしながら新たな創作に役立てていたわけですね。以前のアビ・ヴァールブルクの展覧会を思い出したりしました。
そんな、絵の流通メディアとしての版画という捉え方が面白いですね。ラファエロなんかは、わざわざ版画用に素描を作って、版画を販売させてたそうです。画家にとってはプロモーションのツールにもなっていたのかもしれませんね。ルネサンス期の版画がそういう役割を担っていたことは、これまでの西美の展覧会でも、版画の流通に影響を受けた作品なんかが出てると時々言及されていましたが、こうしてそれが主題になって展覧会を見ることができてよかったです。
しかも連休なのに空いてたのがまた良かったです(笑)。あとカタログが超素晴しく充実してます。すごい。
投稿者 ryoji : May 4, 2007 10:22 PM
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