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篠田守男邸@茨城県新治村[個人宅]
河口龍夫「封印された時間」展のオープニングレセプションで元筑波大学教授の篠田守男先生と再会、土佐千賀さんと共に自宅へ招待された。彼は「テンションとコンプレッション」シリーズで知られる彫刻家であると同時に、真の快楽主義者であって、その住まいにはさまざまの趣向が凝らされている。

まず目を引くのが、広い庭に点在する彼自身の作品を含めた彫刻のコレクションであろう。その多くは彼の教え子のものである。さらに庭には水風呂がしつらえられ、焚火用のかまどもある。また、たいまつを模したオイルの灯火があり、このゆらめく光の下で深夜にいたるまで酒杯をかわした。

室内には、やはり数々のコレクションが所狭しとおかれてある。彼独自の美意識が充満する、まさにシノモリワールドである。

しかし、なんといっても特筆すべきは風呂である。風呂論の執筆をするだけあっって、どこにでもあるものではない。そもそもこの住宅はすでに建てられていたもので、彼の設計ではなく、建物そのものはごく普通の二階建住宅だ。それゆえ風呂も普通の作りである。やや大きめの窓際にバスタブがあり、タイル張りの床と壁、広さは約三畳程度か。これをまず、窓を取り払って解放し、バスタブには握り拳にすっぽり入る程度の丸石を敷き詰め、さらに窓に接する一辺には板材(おそらくは松)を配してテーブルとしている。丸石は疲れた足にここちよく、テーブルはもちろん酒・煙草をたしなむためのものだ。さらにバスタブの底にはやや大きめの漬物石程度の石が片方に寄せておいてある。この石のゆえに浴槽が狭くなると思うなかれ。腰かけて良し寝そべって良しと、姿勢を変えるのに実に都合がよろしいのである。

窓が解放されているおかげで空気が湿ることもなく、浴室の電灯を消せば外の空間と浴室内が一体となって、解放度が極めて高い。このような風呂でこそ心からリラックスでき、疲れもとれるというものだ。

翌朝は篠田先生お手製の朝食を庭でいただいた。八月というのに風はやや肌寒かったが、アルコールと心温まるもてなしはそれを補ってあまりある。このような邸宅で彼の経験談を聞くにつけ、美的・芸術的な生活とはまさしくこのようなものだ、といたく感銘をうけた次第である。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/08/08$