『ザ・セカンド ─ オランダのメディア・アート』展

展覧会の副題としては英語の "Time Based Art" の方があっていると思う。 作品の多くは電子テクノロジーに依拠しているものの、アーティストたちはそれに 対してかなりクールな態度をとり、一定の距離を保っているように感じられたからだ。

Peter Bogers の _"Heaven"('95)_ は17台の白黒モニターが配置 されたインスタレーションで、各モニターには日常的な情景の断片が映っている。 そしてそれらの断片は正確にシンクロして 1秒毎に反復される。そして各映像の音が 入れ替わりながら強調され、ある時間にはこちらの映像の音、次は別の映像の音と いった具合に部屋全体に対して支配的になる。そして音によって強調された反復の リズムは、この部屋を外界から遊離させている。リズムがすべての映像を、その内容に 関わらず等価にしていく。

同様に反復が中心にあるのが A. P. Komen の _"Face Shopping"('94)_ だ。壁面の大きな4つの画面には、若い 女性のクローズアップが見える。数秒間の映像が繰返し映し出すのは彼女達のちょっと したしぐさや表情の変化だ。癖もあるのかも知れない。ここでの反復はちょうど Daouglas Gordon の "Hysterical" のように 無意識的なもの、神経症的なものを思い起こさせる。

同じ ICC で個展をやった Woody Vasulka を夫にもつ Steina Vasulka の彫刻的なビデオ・インスタレーション _"Borealis"('94)_ は、とても力強い。激しく波をたてる海の風景 を垂直に立てたスクリーンに横向きに映されていて、その動きに我を忘れて 見とれてしまう。

この展覧会で最もローテクな(と見える) _"Re-Animations"('95)_ は Christiaan Zwanikken の作品。鳥の頭骨や小動物の頭部の剥製などがキネティックな 装置に取り付けられ、ときおり思い出したようにガチャガチャと動く。遺骸の一部が 動くというとホラー的な感じがするが、この作品は機械と動物のハイブリッド感覚や 頼りなげな装置とあいまって、とってもユーモラスだ。

ほとんどの作品には、例えば '70年代のビデオ・アートや '80年代のコンピュータを 用いた試みの多くがもっていたテクノロジーに対する熱狂があまり感じられない。 それはほとんど単なる素材、彼らのもつそれぞれの主題を実現するのにちょうどいい 素材のように扱われている。メディアに対する偏った(または過剰な)意識から離れて いるこれらの表現には、妙なこだわりがなくて、見ていて楽しめるものだった。


Review 1998 [Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/11/28$