『身体の夢 ― ファッション OR 見えないコルセット』

身体との関係から見たファッションを、現代美術まで含めて集成したとも言える 展覧会。僕自身は、あまりファッションには普段触れていなくてよく知らない のだけれども、それでも充分楽しめる充実した内容だった。

まずプロローグとして18〜19世紀のコルセットやクリノリンといった 器具が展示されている。特にコルセットの細さにはすさまじいものがある。 フランス革命期に一時的にコルセットの不要なドレスが流行したのに、 どうしてまた逆戻りしたのだろう?

続いて「第1部 自然な身体と20世紀のファッション」として、20世紀の様々な試みが 展示されている。年代順に展示されているのは、最初のポワレのドレス ― コルセットからの解放 ― だけといっていいくらいで、むしろ形態的な 類似を中心に展示が構成されているように思える。そのぶん、似たような 試みでも年代によるアプローチの違いなどが見えて興味深かった。

しかし個人的には身体への意識よりも、むしろ素材や形態への意識を強く 感じさせるもののほうが、より興味を持って観ることができた。 例えば Cristobal Balenciaga のミニマルなドレスや、山本耀司のフェルトの ドレスのような、極端に抑制された形態。あるいは Fablice Langlade の 可溶性糊でつくられた作品や、真木洋茂の輪ゴムを編みあげた作品のような、 ちょっと普通でない素材による作品などは、やはり目をひく。

形態ということでは、三宅一生の一連の _Pleats Please_ シリーズや、 「コロンブ」ドレス、あるいは _A-POC_ などは、いずれも布の平面性と 立体的な身体、という矛盾に対するアプローチが非常に面白い。 (ちょっと、遠近法以後の絵画を連想させるようにも思えたりして)
また Martin Margiela のハンガーに掛けると平面になるジャケットも、 そういう平面性を強調していて興味深い。

Martin Margiela といえば「第2部 揺らぐ身体とファッション」でも 古着を流用した上に黴をうえた作品が展示されている。Martin Margiela の この作品は、とても現代美術っぽいアプローチだし、見た目にも着るものと いうよりも造形的な作品という感じがする。

川久保玲のいわゆるコブ・ドレスもあって、これは実物を観るのは初めてだったの だけれど。服にパッドを入れて、背中や腰など不自然な部分にコブのような突起を つくるこの服は、理想化され固定化された身体の概念をくつがえす、という コンセプトだけ知ってたのだけれど、これほど洗練された形をしているとは 思っていなかったので、けっこう驚いた。

現代美術の作品では、マニキュアの色見本のような笠原恵実子の _MANUS-CURE_ がコンセプチュアルで唸らせる。Manuscure の MANUS はローマ法で 夫が妻に対してもつ権利を意味するのだそうだ。色見本を見れば、そこには 女性性を強調した名前が多く並んでいる。

人間の手に象徴される力、それは私たちの尽きることのない物質的欲望であり、 そして時にはジェンダーの絡んだ性の政治でもある。
-笠原恵実子, 本展カタログより
Antonella Piemontese の _Personal Protection Wardrobe_ のシリーズは、 歪んだ形の服に工業用安全器具のカタログからとられたフレーズが プリントされている。身体の歪みと、それを保護する衣服という関係が 強調されている。中でも _Tear Collector (涙滴収集器)_ はユーモラスで繊細。 ヨシタケシンスケのカブリモノシリーズを ちょっと思いだしてしまった。

全体にとても見ごたえのある展覧会だったと思う。 ただ身体という観点からだと、規格化された身体という視点 ─ 既製服や戦時下の国民服や軍服 ― というのも個人的には結構気になるので、 そういうった展示がなかったのがちょっと残念ではあるけれど。


Review 1999[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/08/31$