『デペロの未来派芸術展 -- 20世紀イタリア・デザインの源流』

イタリア未来派のアーティストで、特に動く彫刻 "Complesso Plastico" で知られる Fortunato Depero の回顧展。イタリア未来派というと Giacomo Balla や Umberto Boccioni らの印象が強くて、正直あまり気にしていなかったのだけど、 明くて可愛いらしい作品が沢山あって案外楽しめた。

展示は大きくわけて館の1階に美術よりの絵画作品、2階にデザイン・広告的な 仕事という風になっていたと思う。1915年の「未来派による宇宙の再構築宣言」 ("Riconstruzione Futurista Dell'Universo") にも出てくる「造形複合体」の作品 "Complesso Plastico Colorato Motorumorista Simultaneo di Scomposizione a Strati" も1階に展示されていたが、動いている所は観られなかった。
その他、「立体未来派」期の絵画なども多数あったのだが、『雷鳴の作曲家』(1926) などの明い色彩の作品のいくつかを除くと、やはりキュビズムの影響が 強すぎて、その後のデザインの仕事に見られるような洒落た感じがないように思う。 真面目すぎるというか野暮ったいというか。

だからデザインや玩具の仕事の方がずっと軽やかで僕は好きだ。 1918年の人形劇『人形のパレード (造形バレエ)』(Le Rivista Delle Marionette (I Balli Plastici)) の人形が2階に上ってずぐの所にずらりと並べて 展示されており、ここで印象ががらりと変わる。わりに素朴な作りなのだけれど、 この人形がとっても可愛い。ユーモラスな味のある人形だったので、 是非動いてるところが見たかったのだが、そこが残念ではある。 ほかの人形では、僕は同じポーズで並んだブルーのあざやかな『鉄槌を打つ人々』が 気にいってしまった。労働者のモチーフは前衛らしい、とも言えるかもしれないけど、 すごく可愛いくて、キャラっぽい。そういえば絵画作品にもオウムやウシのような 動物のモチーフが多かったけれど、マンガみたいな楽しげな表情があるのだ。 また、熊やサイをモチーフにした玩具や、家具・調度品なども茶目っけ たっぷりでいい。

広告のデザインでは、なんといっても Campari のシリーズだろう。 あのフラスコ型のビンが未来派デペロのデザインだったということは、初めて知った。 グラフィックのみならずコピーなども手掛けていたというあたりでは、 Russian Avant-Garde の作家たちを思いだしてしまった。 また、タペストリーや日用品のデザインも明るくて印象的。 それほど古さを感じさせないくらい、あか抜けていると思う。

とにかく独特の洒落た感じとかユーモアが楽しい展覧会だった。 Balla や Boccioni よりも断然好きだ。この時代の前衛芸術運動の中では、 未来派はどうもピンとこないと感じていたのだけれど、これでだいぶ 僕の中での未来派のイメージは変わったと思う。


Review 2000[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2000/5/16$