『グラフィック・デザインのモダニズム -- 20世紀・機械時代のグラフィック革命』

副題にあるように、1920-30年代のいわゆる「機械時代」のグラフィック・デザイン を集めた展覧会。Avant-Garde の有名どころのグラフィック・デザインの仕事が 一通り概観できる構成になっている。分類などもわりに無難だし、そういう 意味ではお決まりの構成かもしれない。

でももちろん、この頃の Avant-Garde の 仕事はとても好きなので、単純に作品を見ているだけでもかなり楽しめた。 特に Lissitzky と Maiakovskii による子供向けの本や、Kurt Schwitters による 『タイポグラフィーの新デザイン』、あるいは Maiakovskii の「ロスタの窓」 のシリーズなどが気にいってしまった。他にも Rodchenko によるパッケージや ポスターの一連のデザインも、たまらなく可愛い。例によって Maiakovskii による コピーがついてるわけだが、ホントにいいコンビだ。

展示を見ている時にもちょっと気にはなったのだけれど、この展覧会の 特徴としては、印刷されたものだけでなく、いくつかは原画が 展示されていることが挙げられるだろう。カタログにはエレン・ラプトンによる 「モダニズム時代におけるデザインとプロダクション」という小論が載って いるのだけれど、これが結構興味深い。デザインの対象になる商品は 機械であったり大量生産される工業製品であったりするのだが、 アーティストたちの技術に対する関心として、タイポグラフィーや 印刷・製版技術について論じられているのだ。新しいデザインのための技術的背景と、 それを積極的に使っていったこと、また技術的な限界を乗り越えるために 手仕事も同様に行っていたことが書かれていて、説得力がある。 この小論に引用されている Lissitzky の言葉は、彼らの姿勢を端的に 表しているように思う。

絵画の束縛から足を踏み出した我々は、定規とコンパスを手にするのだ。 …なぜなら、絵筆や定規、コンパスそして機械さえも、進むべき方向を 指し示す我々の指先の延長に過ぎないからである。
-- El Lissitzky, "Suprematism in World Reconstruction," 1920.
こういうのを読むと、最近のグラフィック・デザインがいかに Adobe 製品に おもねっているかが、逆に気になってしまったりするのだが。
Review 2000[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2000/5/29$