リヴァイアサン

Paul Auster の1992年の長編小説。Auster の作品はこれまで「ニューヨーク三部作」 (_City of Class_, 1985, 『シティ・オヴ・グラス』角川文庫, _Ghosts_, 1986, 『幽霊たち』新潮文庫, _The Locked Room_, 1986, 『鍵のかかった部屋』白水Uブックス) を読んだことがあって、わりに面白いな、とは思っていたのだけれど、 邦訳されているものを端から読んでしまいたくなるほどではなかった。 どれもやや暗い色調の、どちらかと言えば孤独を描いた作品だったし。 今回読んだ『リヴァイアサン』もやはり宿命的な出来事に翻弄されていく 男の物語だ。主人公のサックスの友人である語り手が、彼の死後に、それまでの 過程を書き記す、という形をとっている。その語り手にしてもすべてを知って いるわけではなくて、さまざまな話や手がかりを総合しながら物語を進めていく のだけれど、それがちょっとしたサスペンスのような効果をもっているように思う。

でも何より、僕にとって面白かったのは登場人物の一人であるマリアと、 そのモデルになった Sophie Calle の関係だ。この小説を読むきっかけも そこにあるのだけれど、Sophie Calle は去年ギャラリー小柳で個展 _Double Games (1999/11/18-12/18)_ をしていて、その展示が結構 面白かったのだ。Calle が実際に自分のプロジェクトとして行ったことが 『リヴァイアサン』に盛りこまれているのだけれど、同時に Auster も創作として マリアに小説の中で実行させているプロジェクトがある。ギャラリー小柳で 観せていたのは、そのマリアのプロジェクトをそのまま Calle が模倣する、 というプロジェクトの展覧会だった。ややこしい。 でもその奇妙な間テクスト性のようなものが、僕には特に興味深かった。


Review 2000[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2000/7/5$