大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2000

藤幡正樹の 『体験する一寸法師』ワークショップ をやりに、また越後妻有へ。前回は準備で行ったのだが、今回はワークショップと それに伴う作品データのアップデート、及びデータ採取が目的。先週も行く予定だった のだけれど、夏風邪で熱が出てしまい、断念。

『体験する一寸法師』は GPS (Global Positioning System) とビデオを利用した作品。 まず、GPS を持って移動しながらビデオを撮影する。で、GPS のデータを3次元に プロットし、さらにビデオの画像をそのプロットした線上のスクリーンに写す。 GPS のデータは位置と時間を記録しているので、ビデオの時刻とつきあわせると、 ある映像がプロットした地図上のどこで撮影したかがわかる。 ビデオの画像に位置データが与えられるわけだ。だから移動しながら撮影した 映像は、スクリーンごと移動しながら再生されることになる。当然、車だと スクリーンの移動も早いし、歩きだとゆっくりになったりする。

で、ワークショップでは参加者に GPS を持ってトリエンナーレを見てまわってもらい、 同時にビデオも撮って、そのデータを作品に追加していく。またワークショップ 以外にも、僕と同僚であちこちの作品を記録してきて、この作品がトリエンナーレの ドキュメントにもなるようにするわけだ。作品を観にいくのが制作の一部になる。 というわけで、仕事を兼ねて見てまわってきた。以下では、おおむね見た順に 記述している。毎週のワークショップの度にデータを追加して、すべての 作品の映像を取り込むのが目標。ていうか全部見るのが目標。

2000/8/5 (Sat)

午前

朝8時にJR高円寺駅に集合。同僚と「こへび隊」の学生一人とで新潟に 向かう。道は結構混雑していて、関越道に入ってからも渋滞。仕方ないので一旦 一般道に降りてから、もう一度関越道に。関越トンネル直前のパーキングで 休憩、冷奴を喰う。GPS とビデオを用意して、関越トンネルの出入口付近を撮影した。 全長11kmのかなり長いトンネルで、現実感が薄れる。

塩沢ICで降りて、 中里村 方面へ。

北山善夫『死者へ、生者へ』 @ 旧土倉分校
岩崎永人『化石』 @ 清津峡渓谷トンネル
流木でできた人体像がトンネルに配置されている。多くは上のほうを見つめて いるようなのだけど、何を見ているのだろう? 外の渓谷の清々しさとはまた 違う静けさだった。清津峡はナイスなアウトドアスポットなので、 単に泊まりに来るならここがいいな。
Chris Matthews 『中里かかしの庭』 @ 田尻の河原

田尻で雨が降りはじめた。そういえば、前回準備で来たときも雨が降った。 同僚に雨男と言われつつ、中里トリエンナーレセンターのあるユーモールへ。 地元に滞在しているこへびの学生と落ちあって、昼食。

牛波『克雪人』 @ 中里トリエンナーレセンター
なんなんでしょう、この土偶? 赤いし。ハラにガス灯あるし。妙ではある。

午後

激しい雨の降る中、出発。

Richard Wilson 『日本に向けて北を定めよ(74°33' 22")』 @ 中里中
中学校の校庭につきささる家のフレーム。馬鹿馬鹿しいくらいのシンプルさ。
Christian Boltanski 『リネン』 @ ゆくらの原っぱ
Boltanski にしては爽やかな作品かも。ただ、雨だったので 「洗濯物ぬれちゃったよ」って感じでクタっとしていた。晴れた日に見たい。
片瀬和夫『夜釣師』 @ ゆくらの原っぱ

雨がやまないので、とりあえず ミオンなかさと で温泉に入ることにした。露天風呂からは信濃川も少し見え、かなり気持ちいい。 ここの周辺には、いくつかの作品がまとまって見られる。

小本章『自然との共生』
Jaume Plensa 『鳥たちの家』
磯辺行久『川はどこに行った』
以前の川筋にそって黄色い杭が打ってある。 そういえば取手にも、治水によって川筋が変わったところがあった。 それ程感傷的な印象もないし、広範囲で、見応えがある。
坂口寛敏『暖かいイメージのために -- 信濃川』
ちょっと離れた所には、黄桜の丘。
Hong Sung-Do 『妻有で育つ木』
Olu Oguibe 『いちばん長い川』
公募した詩を刻んだ電柱と、仮説の図書館。これらの関係はよくわからない けど、「この川のむこう側には好きな人」なんて詩(句?)はわりに好き。
宿泊予定の 十日町 に向かう途中でも、ちょっと道を間違えつつ、いくつか作品を。
Lee Bul 『水の女神』 @ 弁天池付近
最初は弁天池に設置する予定だったらしいんだけど、どうもいわく付きの池で 猛反対にあって近くの違う池になったのだとか。蓮の花が咲いていて、池は 綺麗だった。作品は、むしろ邪魔かも。
鈴木寅二啓之『軌道』 @ 伊達八幡神社
Hossein Valamanesh 『雪の記憶に』 @ 星と森の美術館
ブナ林に白い梯子のインスタレーション。作業中、ハチに刺されたとかで、 ビクビクしながら見た。関係ないが、美術館の池では鯉が大量に 飼われているのだけど、周りを歩くとうじゃうじゃ付いてきてかなり 気持ちわるい。
さすがに疲れてきた。それに、そろそろ「地域の特性を生かして」とか「自然との なんとか」とかってストーリーに飽きてきた。ま、「大地の芸術祭」なんだから そういう作品が多いのは当然かもしれないけど、自然がそれだけで立派なんだもの。

十日町トリエンナーレセンターで夕食、深夜2:00くらいまでビデオの取り込み などの作業。眠い。トリエンナーレセンターは、あいかわらず雑寝状態だが、 なんか人数が少ない。こへび達はどこに泊まってるんだろう?

2000/8/6 (Sun)

午前

十日町から 川西町 方面へ。
Joseph Kosuth "Reading Sample(Codex)&#;1',2000 @ 妻有大橋
アリストテレスのテキストを貼ったサインボード。河原にあると立看板の ようにしか見えない。あっさりしすぎ。
古郡弘『無戸室』 @ 千手神社
西野康造『大地と空の間』 @ 旧橘中学校
ここから川西ステージへ。山の中に作品が点在しているので、周るだけでも大変。 ほとんど山のぼりに来た感じになってきた。まずは節黒城跡周辺。
吉水浩『森の番人』
白川昌生『さわれる風景/城主の座』
Esther Albardane 『庭師の巨人』
地面からにょきにょき巨人の手や足が生えてる。埋まってるということらしい。 とっても可愛い彫刻。でも道が本当に山道なので疲れる。
柳健司『空と大地の展望台』
Jose de Guimaraes 『詩人の瞑想の路』
Deux Arches 『稜線計画』
山の斜面を掘りくずして、石を金網で囲んである。この地方の工法らしい。 ので、この後いくつか本当に工事している箇所を眼にすることに。パッと見では 工事中の場所と区別がつかんぞ。
Koo Jeong-a 『パンドラズホープ(B.L. に捧ぐ)』
つぎはナカゴ周辺。こっちはだいぶ道がいい。
磯崎道佳『3年後に向けた伝言ゲーム + 手作り見張り塔でずいっ〜と越後妻有』
斉藤義重『時空』
藤原吉志子『レイチェル・カーソンに捧ぐ 〜 4つの小さな物語』
『沈黙の春』といえば科学汚染。自然を大切に。全然好みじゃないけど、 農機・重機の類いを置いといてもいいなら、ということでこの場所を 使えることになったそうな。神殿みたいな所に重機が鎮座ましましてる様は、 いかにも皮肉。
PHスタジオ『河岸段丘』
休憩施設。こざっぱりしてて、心やすまる。
James Turrell 『光の館』
屋根にはもちろん穴が。是非宿泊してみたいものだ。風呂がかなりいい感じ。
そろそろ戻らないと、というわけで、十日町への帰りぎわまたいくつか。
松宮喜代勝『大地の呼吸』
剣持和夫『西永寺本堂 川西 西永寺境内』
本堂の中に下げられた写真のインスタレーションの下に、たまたま 地元のおじさんたちが座ってくつろいでた。その図がなんともいえず良い。
もういい加減なんだかわからなくなってきた。こうして書いてみるとタイトルも 似たようなのが多い気がしてきた。うーむ。

ワークショップに必要な買いものをして、そばを喰う。

午後

ワークショップ。が、全然人が集まらず、ヒマなこへびの子達に歩いてきてもらう。 その間、ほとんど休憩というか、お昼寝。今回は携帯電話を利用して、GPS のデータを 随時ダウンロードし、参加者の現在位置をプロット。データにノイズが多くて、 高度がぐちゃぐちゃになってしまった。
夕方になってウチの学生に会ったら、 佐藤時啓のリキシャを漕いでるそうな。これは、ということで、乗せてもらう。 もちろん GPS とビデオ持ちこみで。
佐藤時啓のリキシャ
作品とは別に、ワークショップで使ったリキシャ。ヴェトナムで作ってきた 極彩色のドハデな自転車。客席が暗室になっていて、上についたレンズから カメラの原理で外の映像が手元の板に写される。動くカメラオブスキュラ。 単純に楽しい。学生は近所の子供達にすっかり馴染まれてたよう。
ワークショップから帰ってきた子達の GPS データをプロットしてみる。 ビデオは次回追加予定。

夕方は早々に撤収してゆくらの温泉へ。こちらはミオンなかさとと違ってかなり ドロドロした湯。食事は関越道のサービスエリアで。渋滞もあったが、なんとか 終電にまにあう時間に都内で落としてもらい、取手まで帰る。

この2日はほとんど移動に費やした感じ。天気もだいたい良かったし、 温泉も入ったし、疲れはしたけど楽しめた。妻有の景色もとても良い。というか、 あれだけ美しい棚田とか見てると、正直いって芸術はどうでもよくなってくるような。


Review 2000[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2000/8/7$