ヨシタケシンスケ『おそらく後日 改めて』

さて studio BIG ART のヨシタケシンスケの新作は、 以前見た展覧会 でも見せていたドローイングというか、イラストの展覧会だ。 会場の www.so-net/cafe は、いわゆるインターネット喫茶。 店内の壁に作品が虫ピンのようなもので貼られている。カップルが多くて、 一人で行った僕はちょっと居心地がわるかったけれど。

でも居心地わるい所で彼の作品を観る、というのも案外悪くないかも しれない。というのは、作品の中には居心地の悪さとか、バツの悪さを 思いだしてニヤリとするようなものが少なくないからだ。 イラストはほとんどが一コママンガのような形で、ざっと描いた感じの絵に 短い言葉が付いているようなものがほとんど。言葉のないものも多い。 主題になっているのは、ホントに日常の些細な出来事 ― 「出来事」とさえ 呼ばれないかも知れないほど些細なこと ― の喜びや淋しさ、楽しさや「とほほ」 な感じ、などだ。全然大したことなんて起きない、決意もなければ苦悩もない、 ちょっとした気持ちの動きだけがある、そういう生活の襞の中に埋もれて いくような何か、を彼の作品は掬い上げて祝福している。 つい「あるある」と思ってしまう。とっても可愛い。

「癒し系」って言われちゃうかもしれない。でもヨシタケ作品の良いところは、 全然どうってことない「この私」を、その「どうってことない」ままでも 案外楽しいじゃないかと思わせてくれる所だ。悲劇が起きなくても、成功が 訪ずれなくても、別にいいのだ。ヨシタケ作品は「つらい私」を癒さない。 そんな大げさなことは、ここにはないのだ。だからテキトーだ。それは、 深刻さから逃げつづけることの強さだと思う。 以前の「カブリモノシリーズ」では人間関係の居心地のわるさみたいなものが 全面に出ていたと思うけれど、今回の展覧会はもっと肯定的な感じがする。

今回も会場で作品集を販売していた。もちろん購入。

ヨシタケシンスケ『おそらく後日 改めて』

前回の作品集では、枠線で区切ったページにイラストが一つずつ配置されていた けれど、今回のものは枠線もなくて、ラクガキのような体裁になっている。 なんだか、この方が自然だと思った。
Review 2001[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2001/6/3$