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Gillian Wearing @ ギャラリー小柳 [美術展]

東京都現代美術館『リアル/ライフ ─ イギリスの新しい美術』展 で印象に残っていた Gillian Wearing。個展をやってるという 情報をたまたま拾ったので、雨の中銀座を歩いていった。

展示されていた "Cover / 2 into 1" は5分のビデオ作品。 双子の息子とその母親が、互いについて語っているの声を入れ替えている。 母親のコメントに息子が「口パク」で合わせて、母親も息子の言葉を口パクで語る。 口パクは Alain Renais の 『恋するシャンソン』 でも使われていたようなユーモラスな効果をあげている。 『リアル/ライフ』に出していた 「サーシャとママ」("Sasha and Mum," 1996) では時間が逆転されていたけれど、こちらは立場が変わっているわけだ。
自分についての語りを自分の口から言っている様子は、 「誰かがあなたに言わせたがっていることじゃなくて、 あなたが彼らに言わせてみたいこと」 ("Signs that say what you want them to say and not signs that say what someone else wants you to say," 1992-93) という自分の思っていることを書かせたポートレイトと同様に、 人が人に対して抱く考えを、その関係から、ねじれさせる。

また、息子たちのネクタイ姿と母親のちょっとくたびれた服装は、 「小生意気な子ども/頼りなげな母親」という対比を際だたせている。 そういえば「サーシャとママ」では、サーシャが下着姿だったし、 「世界に歌うことを教えたいの」 ("I'd like to teach the world to sing," 1995) ではみんな花柄のワンピースを着ていた。 服装は演出上のポイントになっているようだ。

ともあれ、家庭での人間関係を扱う皮肉っぽさやユーモアは、 美術というよりはある種の小説 ─ 例えば、とすぐに適当な例が思いつかなくてはがゆいのだけれど ─ のような印象を与えるものだ。とても文学的な雰囲気のビデオだった。

奥の部屋では「誰かがあなたに〜」の写真と、 写真とそれにまつわる手書きの文章を組み合わせたものがそれぞれ2点ずつ 展示されていた。「誰かがあなたに〜」のように、たくさんある連作の一部だろうか。


Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1998/10/20$