『パサージュ ─ フランスの新しい美術』

暑い。天気が良いのはいいけれど、こう暑くては美術館まで足を運ぶのも おっくうになる。それでも、フランス現代美術ということで、 去年の秋に観た『眼と精神』展 もわりに面白かったし、汗をかきながらも行ってきた。

まず嬉しくなったのは、Bili Bidjocka の "Pediluve" (1999) だ。薄い布の張られた回廊のようなインスタレーションなのだけど、 何が嬉しいかといえばその床に水が張られていたことだ。靴を脱いで裸足になって 中に入る。ひんやりしてとても気持ちがいい。布のおかげで白っぽくなった 空間も涼しげだ。中央には天井からビデオがプロジェクションされていて、 たぶん地下鉄か何かの映像のようだったが、よく見えなかった。

涼しげといえば Michel Blazy のインスタレーションもそう。 ペンキの剥れた壁、窓に生やした草やカビといった、廃屋を思わせる室内。 雑然としているようでも静けさがある。静かに腐敗や草の成長が進行中であることを 感じさせる作品だ。

Jean-Michel Othoniel の"The Wishing Wall" (1999) は、壁一面をマッチ箱の火を点ける面にしてしまっている。中央にマッチを点けた 形跡があって、その下には消えたマッチ棒が転がっている。 こういう軽い冗談のような作品は好み。

それから Sophie Calle の "Les dormeurs" (「眠る人々」, 1979) は、作家のベッドで人々を眠らせて、同時にインタビューを した記録。『なぜ、これがアートなの?』で観た "The Blind" と似たような方法だが、今回のもののほうが 日常的なテーマなだけにずっと素直に見ることができた。

Majida Khattari の体を拘束するようなドレスは、イスラム教国での 女性の抑圧的な状況を思わせる、フェミニスティックな作品。 特に花嫁衣裳には作家の滞在許可証が縫いつけられていて、 この衣裳を着るモデルには黒人を希望したとのことだが、 偽装結婚する移民を連想させる強烈なものだった。


Review 1999[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 1999/08/08$