土佐信道『FISH→FLOWER -- EDELWEISS』

前回の『FISH→FLOWER 1 -- NAKI展』 と同様に agnes b.青山店で行なわれた 土佐 信道 の個展。 前回は「魚器」の展覧会だったけれど、今回はついに新シリーズの「EDELWEISS」だ。 久々の新シリーズということで、期待も大きかったけれど、とても楽しめる 内容だった。数年前にすでに本人から構想を聞いたりしていただけに、 ついに、という気持ちというか感慨みたいなものもある。

魚から花へ。自分自身の探究から理想の女性へ。製品から寓話へ。 作品の表面的なテイストはもちろん 土佐 信道 そのものだけれど、魚器のバック グラウンドとはかなり違った様相が伺える。「EDELWEISS」の作品は、 女の都「末京(まつきょう)」を舞台とした物語 を出発点に、そこに現われるアイテムが中心となっている。 精子に着せる甲胄や、髪をとかして音を奏でる櫛などがそうだ。 僕はエンジンを動かして排気ガスの香りを楽しむための装置「ムスタング」 がとても気に入ってしまった。そしてまた、身体のもつ情報をアピールする アクセサリもあって、例えば臍を中心にホクロの地図を描くためのメジャーや、 肌の色を測定する器具などは、普通のアクセサリとは違って個性を 「演出する」のではなく、それを測定し、表示するというドライなものだ。

会期中のパフォーマンスでは、150種類の薬液 (シャンプーや化粧品など) の カートリッジを発射する装置を使って、それらの混合液である「末京液」が 作られる。この装置はちょっと「弓魚3号」みたいな雰囲気で、個人的には シリーズの中では異質な印象を受けた。

アクセサリや物語のアイテムといった複数の属性からなる作品シリーズで、 しかも商品化の予定のあるもの (「ビットマン」の新バージョンなど) もあって、 シリーズ全体が複合的な要素を持っていて、それらの要素の関係は比較的緩やか だと思う。例えば「魚器」と違ってシリーズの完結は予告されていないし、 作品のすべてが物語に登場するわけでもないし、アクセサリでないものもある。 「魚器」が一つ一つの作品からある世界を作りだしていたのに対して、 「EDELWEISS」は物語世界から作品が現われているのだけれど、そういった 緩やかさがむしろ作品の世界に拡がりを与えているように思う。 そういう意味で、シリーズの今後の展開にも期待してしまった。


Review 2000[Index]
Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>
$Date: 2000/8/16$