やったもんがち芸術論
第6回

美術史

美術の歴史がいつ始まるかと言えば、きっと原始人の誰かが絵を描いたときとか、 彫刻を作ったときになるでしょう。でも「美術史というもの」は、美術が 歴史として書かれた時に初めてはじまります。西洋では16世紀にヴァザーリ という人が創始したと言われることが多いです。また18世紀にヴィンケルマンという ドイツ人が、学問としての「美術史」の形を整えました。

歴史を書くということは、それがどんな道をたどってきたかを書くことです。 それはアイデンティティーを作る大きな要素なのです。履歴書だって、その人が どういう人かを見るために書かれるものでしょう? だから「美術とはこういうものだ」 という考え方が、そこには反映されています。

つまり、事実が単純に客観的に書かれているとは言いきれないところがあるんです。 たとえば20世紀前半に書かれた美術史の本には、女性の芸術家が現われることは ほとんどありませんでした。19世紀に書かれた本には結構出てきていたのに、です。 彼らは「偉大な芸術家」といえば男性の芸術家のことしか思いうかばなかった というわけです。

ところで、なにげに使っている「美術」という言葉だって、明治になって あわてて作られた言葉なんですよ。1873年にウィーン万博に日本が出品するときに、 出品物の分類のために作られました。この時にはなんと音楽も含まれていました。 ちなみに「芸術」という言葉はもともとは中国語で、こちらは結構古くから使われて いたようです。

「美術」も「美術史」も、大昔からあったわけではありません。 それはある時そう名付けられたものなのです。

(1999/12/1)


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Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>