やったもんがち芸術論
第7回

自作自演

美術展に便器を出品しようとしたデュシャンは、その時は本名を隠していました。 そして作品が拒否されたあとで、その (実は自分自身である) 出品者を擁護したり、 彼の友人たちを巻き込んで議論を繰り広げたりしたわけです。こうして件の便器は 注目を集め、有名になりました。美術界の仕組みを利用した戦略、 とか言われるところですが、ふつう世間ではマッチポンプといいますよね。 でもアーティストにとって、自分の存在や作品を世間にどうやってアピールするか というのは大問題です。

もう一つ例をあげるなら、ヨーゼフ・ボイスでしょうか。彼は第二次大戦中に ナチスの軍隊のパイロットをしていて、墜落しました。ボイス自身の話では、 タタール人が意識不明の彼をラードとフェルトで包んで救ったそうです。 ホントかよ、と思ってしまう話ではあります。でも人を魅きつける話です。 回復した彼はアーティストになりました。作品には脂やフェルトが よく使われているのですが、あのエピソードが作品に説得力をもたせています。 ボイスは文字通りカリスマ的存在で、着ていた服が作品になったくらいです。 まるで聖遺物 (キリストの顔に掛けられた布とか) みたいじゃないですか? ほとんど宗教ですよね。

これらはどちらも言葉や物語が作品に力を与える例です。明和電機の電気屋風の スタイルなどは、こういう伝説のパロディと言うこともできるでしょう。 いかにもばかげているし、誰も本気にしませんからね。

でも往々にして、その人の業績よりも伝説の方が面白がられるものです。 わかりやすいエピソードこそ「天才」の条件なのかも知れません。

(2000/1/24)


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Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>