やったもんがち芸術論
第8回

政治性

「肝心なのは世界を変えることだ」と言ったのはマルクスですが、20世紀の 美術家はしばしば政治的な事柄に首をつっこんできました。作品によって 人々のものの見方を変化させ、さらに考え方を、そして最終的には社会全体を 変えようとしたのです。社会問題を扱う芸術を邪道のように考える人もいる ようですが、表現したいことを表現するのが芸術。もちろん、正しい意見を 含んだ下らない作品もありますけど。

20世紀初頭には政治的に過激な前衛芸術がありました。ヨーロッパでは戦争 しまくってた時期ですが、「前衛」って元は戦争の最前線のことですよね。 左翼と右翼にざっくりわけてみると、その頃ロシアの前衛芸術家は左翼でした。 ちょうどロシア革命直後で盛り上ってたし、もう真っ赤っか。 例えばエイゼンシュテインの映画『ストライキ』は、立ち上がれ全国の労働者よ! って感じです。逆にイタリアの未来派芸術家は右翼でした。「戦争は美しい」 なんてマジで言ってます。その頃のイタリアといえばファシスト党。 でもどっちも、当時の政治権力に利用されるようになったりとかして、 しぼんでいきます。ヒトラーも当時の新しい芸術運動を「退廃芸術」なんて 言って弾圧しましたし。

で、現代では冷戦も終わっちゃったので少し様子が違ってて、女性差別や 旧植民地の文化がテーマになることが多いようですね。美術館での展覧会でも よくやってるので、その辺に注目してみるのもいいでしょう。

ところで僕は昨今の癒しブームに苛立ってるのですが、それは現実の政治性を 無視して現状を肯定するメッセージが基本になってるからです。「今のままの 君でいいんだよ」というわけです。変化は望まれず、世の中は眼中にありません。 きっと社会の不条理よりも、自分の心の傷の方が大問題なのでしょう。

「癒し系」の流行を見るにつけ、今は政治の季節ではないんだなぁ、 とつくづく思ったりしてます。

(2000/3/27)


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Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>