やったもんがち芸術論
第12回

集める

なんかよくわからないけど集めてしまうものってありますよね。マンガを全巻 揃えたり、切手とかトレーディングカードとか。ものを集めることって、 人間の本性というか、強い欲望があるんでしょうね。美術作品も収集の対象に なりますけど、ものを集めてくることで作品にするアーティストも少なくありません。

C. ボルタンスキーの代表的な作品では、たくさんの古着が集められました。 ランプをあてた子供の顔写真と組みあわされて、ほの暗い雰囲気の中に 積み上げられた古着は、大量の死を象徴するものでした。顔と同様にそれぞれの 表情を持つ古着は、誰にとっても同じ死と、きわめて個別的な生を同時に 連想させます。ものは大量に置かれることで一つ一つの持つ「重み」が希薄に なりますが、この作品はそれを拒否しているかのようです。

給水塔や溶鉱炉のような決まった種類の建物を数多く撮って、それぞれにシリーズ としたベッヒャー夫妻もまた、たくさんのものを並べることで見えてくる 別の視点を示しています。同じ機能を持つ給水塔を同じように撮影することで、 逆にそれぞれの給水塔のもつ形の違いが浮び上がってくるのです。同じものの 様々なヴァリエーションには、変奏曲のような心地良さがあります。 そして同じだけど少しずつ違うということ、これは僕たち人間にも言えることです。 ベッヒャー夫妻は、アイデンティティーの問題に不幸な過去が関わってくる ドイツ人ですが、そんなことも関係あるのかもしれません。

もし何か集めているものがあれば、あらためてズラリと並べてみてはどうでしょう。 一つ一つを見ている時とは違った何かを発見するかもしれませんよ。

(2000/12/11)


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Murata Ryoji - <ryoji@cc.rim.or.jp>