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October 17, 2005

美術資料情報の基本問題 - 資料番号

図書館にある本には、請求記号というのがついてますよね。あれと同じで、美術館にある作品にも普通その機関によって番号がつけられています。芸大美術館では「物品番号」、東近美だと「所蔵品番号」。うーむ、いきなり語彙がバラバラですが…。さらに東博では「列品番号」といいます。収蔵品のことを「列品」というんですよ。もう完全にジャーゴンですな。

それはさておき、以前にもふれた CDWA では Current Location - Repository Numbers の項で、

REPOSITORY NUMBERS are PRIMARY ACCESS POINTS.

と、やたら大文字を使って強調しています。実際そのとおりで、作品の名前というのは不安定でモノの最終的な同定には使えませんから、確かに非常に重要なわけです。CIDOC Information Categories でもやはり、Object Number として

Without an Object number it is not possible either to uniquely identify an object or to link an object with its documentation.

と言われています。ごく当然のこととして、管理している物に番号をふって一意に識別ができるようにすることは重要です、と。

さて、単純明快と思えるこの資料番号ってやつが、実はちょっとやっかいなところがあるんです。CDWA の先の引用の前後には、

There may be multiple identifiers associated with a work

Multiple identifiers should be accommodated

とあります。また CIDOC IC にも、

Multiple numbers may be assigned to the object

とあって、こちらには Object Number と一緒になる情報として Object Number Type と Object Number Date があります。すなわち、いつ資料につけられた、どのような番号なのか、という記録を取ることが考えられているのです。資料の番号というのは、実は複数付けられることがあるのです。

具体的に見てみましょう。芸大美術館の仕事をしたときに経験したのは、分類の変更です。芸大美術館では、物品番号は作品の受入れによって付加されるのですが、その番号は分類ごとにつけられています (というか、台帳が分類ごとになっている)。『靴屋の親爺』は西洋画に分類されていましたが、2002年に重要文化財に指定されるとともに、文化財に分類が変更されました。したがって「西洋画9」と「文化財32」があり、後者が現在の番号なわけです。

東博のように3世紀にわたって続いてるようなところだと、さらにいろんなことが起きます。分類換えは当然ありますが、それ以前に分類体系そのものが変わっています (当初は天産部といって剥製などもあったらしいです…)。ま、ともかく、現在の体系になるのは昭和も後半になってからです。このときは東洋美術が別立ての分類になりました。また明治時代には「絵画」とか「彫刻」とかの用語ではなく、「一區二類」のような分類名が使われていたこともあります。ホントは『東京国立博物館百年史』とか調べるとちゃんとわかるのですが、ともかく何度も分類体系が変更されてきていて、その度に番号をつけかえたりとかいろいろしてるわけです。芸大美術館なんかはその点分類体系を変えてなくてエライなーと思います (そのかわり「東洋画真蹟」のような素人にはおすすめできない分類名が残ってるし、「雑美術工芸品」という「その他」を作ってしまってますが)。

分類が変わってなくても番号が変わることがあります。それは転出・転入。同じモノが一旦外に移管されて、何十年もしてから戻ってきたとき、元の番号は廃棄されて新しい番号がついたりするわけです。このあたりは、基本の台帳がどちらかというと会計上の資産管理をベースにしているというところに起因していそうな気がしますが。

で、ですね。古い番号は書きかえて新しい番号だけ残せばいいじゃないかと思うでしょ? ダメです。なぜか。先の『靴屋の親爺』は有名な作品で、これまでに何度となく展覧会に出されています。そのときの展覧会カタログには「西洋画9」となってるんです。出版された目録にもそう載っています。おそらく文化財に指定された後の年報などに新しい番号が載れば、それが公になった情報ということになるでしょうが、アクセスが難しい。だから古い番号が削除されてしまうと、探してる作品がどこにいったかわからなくなってしまう可能性が大きいのです。

さらに。貴重な (というかまあ、単価の高い) 美術品だけでなく、土器片だとか瓦だとかがドカドカ博物館で受入れられることがあります。資料番号は、モノそのものに書きこまれたり、シールに書いてつけられたりします。番号の変更があったとき、土器片とか瓦のような数の多いものまで手が回らないまま何年も経ってしまう、というのは現実的にありうることです。すると、モノに古い番号しか書いてない、なんてことになります。こういうことがあるので、古い番号をさっさと捨てるということができないのです。

さらに「枝番」という問題があります。受入れを基準にした資料番号をさらに細分化するためにつけられることがあります。東博だと極端な例として「松方コレクション」と呼ばれる浮世絵のコレクションがあるのですが、これは「絵画10569」という単一の番号がついてますけど、実は8000枚以上の浮世絵が含まれています。このあたりは記述の単位の問題ともかかわってくる部分です。展示の都合なんかでいい加減に枝番をつけてしまうと、後で別の人が同じモノに違う枝番をふってしまって整合がとれなくなるかもしれない。そして台帳のようなオーソライズされた記録になりにくい。だから軽視されがちなんですが、枝番がどうしても必要なときには、館としてその枝番をオーソライズする手続きが必要ではないかと思います。

しっかしなぁ。これって今までそうやってきちゃったから、なんですよねぇ。というわけで、過去を一切引き摺らずに今から美術館で作品に番号をつけようとしてるところがもしあるとするならば、

  1. 番号は分類とは無関係に、差別なくシリアルにつける。
  2. 番号は一度つけたら金輪際変えない。100年後も同じ番号を使うつもりで。
  3. 常識的な範囲で、可能なかぎり細かい単位で番号をつける。特に美術では「一括」はできるだけ避ける努力をしてほしい。
  4. 枝番をつけるときにはちゃんとオーソライズする。

と言いたいです。

投稿者 ryoji : October 17, 2005 12:09 AM

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