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January 08, 2006

南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか』

TFJ さんにも勧められた南直人『ヨーロッパの舌はどう変わったか』(講談社選書メチエ 123, 1998) を読んでみました。

ヨーロッパの舌はどう変わったか―十九世紀食卓革命

面白い。一般的に「洋食」あるいは欧米風の食事としてイメージされているものが、欧米において伝統的だったものというより実際には19世紀末から20世紀初頭にようやく定着してきた近代的な食であって、その登場には他の様々な近代化の過程が密接に絡まりあっていることを示しています。たとえば大航海時代以来の交通手段の発達、および新世界からの新しい食材の流入、植民地とプランテーション農業、人口の変動、産業革命以後の生活スタイルの変化、加工技術の高度化、健康というイデオロギーの登場…などなど。いまの日本では「欧米風の食事に憧れる」というようなことはほとんどないでしょうけれど、ちょっと前までのヨーロッパの普通の民衆がいかに粗末な食事をしていたか、近代がいかに人間生活を豊かにし、どんな新しい問題が生まれてきたかについて、いろいろ思いをめぐらせながら読みました。うむ。昔の人が何食ってたかを知るってのは大事だと思います。いまだに「日本人は農耕民族、欧米人は狩猟民族」みたいなことを当たり前のように言う人いるからなー。あれってどこから出てきた話なんだろ? 誰か調べてないのかなー。

話がずれました。いろいろと発見があったのですが、特に驚いたのは、中世末期は結構栄養状態が良かったらしいこと、そしてその時期にはかなり肉食いまくりだったっぽいということ。この時期はペストによる人口減少で労働力が不足して都市労働者の賃金が上がり、農業も穀物栽培より牧畜のほうが(手間がかからないので)有利となって、結果たっぷり肉が食えるという状況だったようです。近代にかけて次第に人口が増えていくと肉の消費量は減少して、19世紀末から20世紀初頭にかけて、産業革命による購買力の向上や肉の流通や保存の改善を背景にしつつ、肉食が「復活」するという構図なんですね。僕はもっと直線的に肉の消費量が増えてきたのだろうとばっかり思っていたので、これには驚きました。

他にも食事のスタイルやマナーの変化、加工食品の登場など面白い話題が盛り沢山でした。こうなってくると、近代以前の日本の食事はどんなだったのかとか、近代化は中華料理にどんな影響を与えたのか(トウガラシが入る前の四川料理とか)とか知りたいですねー。とくに中華料理はすぐ4千年とか3千年とかいう言葉で修飾されるのを、んなわけねーだろと常々感じてるので、興味ありますー。

投稿者 ryoji : January 8, 2006 12:47 AM

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