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September 25, 2007
ケルンの Kolumba
充分な時間をとって見ることができなかったのが悔やまれる Kolumba ですが、簡単に印象を。
ここはもと聖コルンバ教会だった場所で、大戦で破壊された廃墟があったところです。またその下にはローマ時代のやはり教会の遺跡があります。いくつもの時代に建物がつくられたらしくて、かなりややこしいことになってるんですが、オープンした新しい美術館の建物は Peter Zumthor が設計したものです。旧教会の壁面の一部を活かした建物で、1階には地下の遺跡を見ることのできる広いスペースがあり、壮観です。また2階から上の展示室は大きな窓が多く自然光が入って、全般的にはとても明るい雰囲気です。
ただ一つだけとても暗い部屋があって、そこにはガラスケースに納められた中世のキリスト教工芸品、銀の祭壇用具や十字架、小さいが緻密な装飾をほどこされた写本などが展示されています。この部屋は、ガラスケースに銀細工の輝きが反射しあって、独特の雰囲気のある展示室になっています。
コレクションは、こうした中世やローマ時代のキリスト教美術から現代美術まで。「から…まで」といっても、僕が見たときに展示されていたのはほぼ13~15世紀ごろの彫刻や工芸品と、20世紀の美術作品でした。展示は時代や地域で分けてあるようでもなく、ちょっとどういうオーダーなのか把握できませんでした。が、中世の美術と現代の作品を同列に扱うような展示が不思議と心地よくて、非常にうまく演出されていると感じました。並べることで何か明瞭なコンセプトを見せようという風にも感じられませんでしたが、それが逆に、こういう新旧とりまぜた展示にありがちな才気ばしった雰囲気をもたせずに済んでいるのかな、とも思います。
現代美術のコレクションは結構有名どころも大くて楽しませてくれます。ヤニス・クネリスやウォルフガング・ライプ、ウォーホル、ヨゼフ・アルバース、レベッカ・ホルンなどなど。日本人ではイケムラ・レイコの作品もありました。これらの作品の間に中世のキリスト教美術が一緒に展示されていて、しかもいやらしくなく、それぞれの作品の魅力を充分に見せてくれる。見事です。
とにかく、コレクションの質も高くて、展示もとても丁寧かつチャレンジングだし、建物もユニークだし、非常に面白い美術館でした。機会があればもう一度じっくり見たいものです。
投稿者 ryoji : 12:58 AM | トラックバック
September 23, 2007
リヒターによるケルン大聖堂のステンドグラス
ケルン大聖堂 Koelner Dom の南側のステンドグラスが8月25日にお披露目となり、Dom の隣の Museum Ludwig でも関連の展示が行なわれています。これらについては、次のページにあるビデオ (写真をクリックで表示) が Museum Ludwig での展示と大聖堂のステンドグラスの様子がわかりやすいかと思います。
Gerhard Richter / Cologne Cathedral and Museum Ludwig, Cologne | VernissageTV art tv
大聖堂は本当に馬鹿みたいに巨大です。19世紀のある時期には世界一高い建造物だったそうで、町のいろいろな所から見えます。黒々としたその威容は近くで見ると恐ろしいものがあり、なんというか、怪獣のようです。ゴジラ映画でビル群の向こうにゴジラが見えるシーンがよくありますが、あんな感じ。表面もゴシックのドロドロした装飾で一杯だし、神聖さというよりは力とか強さとか意志とか、そういうものが圧倒的なように思いました。また内部もやたらと高い天井が圧倒的です。
リヒターのステンドグラスは、ランダムな配色をコンピュータで様々にシミュレートしながら設計されたそうです。全てがランダムなのではなく、半分は対照になっています。例えば縦長の6つの窓を左から1, 2, 3...6 と呼ぶとすると、1と3、2と5、4と6がそれぞれミラーになっています。こうした設計がリヒターの過去の作品にあるのかどうかはちょっとわかりませんが。
外から見ても綺麗ですが、やはり大聖堂の内部から見るのが非常に美しいです。特に僕が昼間見たときには、ちょうど南に太陽があって強い光が指しこんで、さまざまな色の光の影を投げかけ、大聖堂の内部が色とりどりに染まりました。また雲が流れて太陽の光を遮るたびに、入ってくる光も強くなり弱くなり、日の光が生きて変化しつづけていることを感じさせてくれます。見ているうちに、意識がステンドグラスから光自体に集中していくのに気づきました。この作品は光そのものを見せています。このステンドグラスが抽象的で聖人の画像などが一切ないことに不満な人もいるようですが、具象的なイメージがあったとしたら、このように光に集中することはなかったでしょう。
リヒターの仕事は非常に多面的ですが、知覚や光の問題にも継続的に取り組んでいますし、実際に見てみれば過去の作品と表面的に似ているだけではなく、一貫した問題意識があり、またそれがこうした大作に結実しているのだ、と思えます。
ところで、実はいくつかの教会のステンドグラスを見てみると、メインの窓以外の部分では案外モザイク的な抽象パターンが採用されていることに気づきます。ミュンスターに妻の友人と行ったときに見たある教会でもそうでした。そこでその友人が、教会にいたガイドか何かの中年の女性に向かって、「ここのステンドグラスはとても綺麗ですね。ケルンのリヒターのものと同じじゃないですか?」という風なことを訊いたところ「いやいや、全然違う。ここのは神との繋がりがあるが、リヒターのは全然そうじゃない」みたいに反論されたそうです。なかなか面白いですね。
投稿者 ryoji : 04:42 AM | コメント (1) | トラックバック
September 22, 2007
ケルン大聖堂、ゲルハルト・リヒター、マイスナー大司教、退廃芸術
ケルン滞在中に地元で大きな話題になっていたマイスナー大司教の「退廃芸術」発言問題。Wikipedia の Joachim Meisner の英語版およびドイツ語版にはすでにこの話が出ています。興味深いところのある話題なので、少しまとめてみます。
ケルン大聖堂はゴシック建築の代表的な教会建築ですが、ここの南面のステンドグラスを存命中の最も重要な芸術家にも数えられるゲルハルト・リヒターが手がけ、今年の8月25日に完成しました。リヒターのカラーチャート絵画を思い出させる抽象的なパターンによって構成されたもので、大変美しいものです。ところがマイスナー大司教はこれに批判的で、「大聖堂には似合わない。むしろモスク向き」などと発言していました。
で、僕たちが大聖堂を見に行った14日は、比較的近くにある Kolumba という美術館のオープニングだったんですね。Kolumba については改めて書きますが、古くから教会があった場所で、遺跡や旧教会の建物の一部を活かした美術館としてリニューアルされたんです。で、その式典のためにマイスナーは大聖堂でのミサの後、Kolumba へ行列で移動して、そちらでもスピーチ。そのスピーチの中で「宗教から離れた文化は退廃する」という言い方をしたそうです。ミサでの説教でも「entartete Kunst」つまり「退廃芸術」という言葉を実際に使っていたようです。
もちろん「退廃芸術」といえば、ナチが1937年に行なった「退廃芸術」展を即座に連想させる言葉です。直接リヒターの作品を非難した形ではありませんが、しかし非難の対象にそれが含まれていることは明らか。そして芸術を批判するためにこうした言葉―ナチの第三帝国がその芸術政策で使った言葉が使われたということに、多数の批判が寄せられました。ちなみに「中心の喪失」という言い方も大司教はしていて、これについて Frankfurter Allgemeine の記事ではハンス・ゼードルマイアに言及していました。
現在も論議が続いているようですが、ひとまず大司教側は「発言は誤解されている」と言っているようです。何しろ僕は直接ドイツ語を読めないので正確に把握しきれていませんが、文化や芸術を巡る発言で新聞の一面に載るようなスキャンダルになるというのは、日本では現在はほとんど考えられないですよね。特に16日の日曜には Die Welt の日曜版の一面に大きくとりあげられてましたし、Frankfurter Allegemeine でもいくつも記事が出ています。どうもこのマイスナーは以前から人騒がせな発言がある人物のようですが…。もちろん単なる批判ではなくてナチ絡みの言葉を使ったからこそ議論が沸騰した、ということでしょうし、その点では日本で少し前に起きた原爆投下「しょうがなかった」発言に似たところがあるかもしれせん。
僕が面白いと感じたのは、これら一連の議論の要素の一つ一つが非常に有機的に関連しあってケルンという都市の文化を作っているということです。ローマ時代の遺跡を残しつつ現代美術まで展示する Kolumba、現代の大画家リヒターのステンドグラスを受け容れたヨーロッパを代表するゴシック建築、逃れようもなく影を落とすナチズムの記憶、美術が今でもキリスト教文化と深いつながりを持っているということ、またこうしたスキャンダルが逆に教会の権威を示してもいるということ…などなど。日本ならいくら有名な僧侶が問題発言をしたとしても、こんな騒ぎにはならないでしょうしねぇ。
僕としては、一通り落ち着いた頃にハーバーマスあたりが何か書かないかしら、と思ってるんですが…。どうかなぁ。
投稿者 ryoji : 08:15 PM | トラックバック
強行軍
今朝の便で東京に帰ってきました。早くも忘れそうなので、日程だけをメモ。詳細は別に書きます。
13日(木) - フランクフルト空港からケルンのホテルに着。ガビさんとその友人と夕食(日本食)。
14日(金) - 午前中、用事をすませてからフィリップと昼食(キッシュ)。午後はまず KHM のビブリオテークと写真工房を訪問。次に Ludwig Museum の企画展(バルテュス)と一部常設を見て、ケルン大聖堂へ。リヒターのステンドグラスを拝見。近所のとあるギャラリーを見て、KOLUMBA へ。でもこの日はオープニングで関係者しか入れず。夜はガビさんにドイツ料理をごちそうになる。
15日(土) - 午前中、カフェでガビさんの紹介してくれたアーティストに妻がインタビュー。昼はアクセルくんとカレー。午後 Walter König で本を物色してから KOLUMBA へ。夜はデトレフくんとイタリアン。
16日(日) - ガビさんと3人でミュンスターへ。夕方までかけて Skulpture Projekte 07 を見学。夜はエルホフさん宅を訪問。
17日(月) - 朝からカッセルへ。電車の中で偶然会ったことのある日本人に遭遇。一日かけて見て、深夜にケルンに戻る。
18日(火) - 午前中、ビョルンに案内されて KISD を見学。フィリップたちとお茶。午後は Walter König で本を買って日本に送ってもらってから、デュッセルドルフへ。K20 と K21 を回り、夜はドイツ料理を出す店で。さらにアクセルくんと二次会。
19日(水) - ケルンのホテルをチェックアウト、荷物の郵送の手配をして再度大聖堂へ。昼の光でステンドグラスを見る。午後の便でヴェネツィア着。メストレ地区のホテルにチェックイン。夜は近くのレストランで。
20(木) - ヴェネツィア島までバスで、そこから徒歩で移動。アカデミア美術館を拝見。サンマルコ寺院とドゥカーレ宮は長蛇の列ができていたのでパス。昼食をとってビエンナーレ会場へ。ジャルディーニに時間をかけて、あとの場所はアーセナルだけ早足で。夕食は地元の人のいる店でビザ。
21(金) - チェックアウト。ヴェネツィアからフランクフルト経由で東京へ。フランクフルトの乗り換えがあわただしくて、あやうく迷子になるところに。
…とまあ、どうにか無事に帰ってこれましたが、忙しすぎですよね。疲れました。それぞれについては、改めて書くつもりです。たぶん。
投稿者 ryoji : 04:03 PM | トラックバック
September 18, 2007
ドイツ旅行中
13日からドイツに来ています。でも毎日あわただしくて、ここにメモをする余裕もないくらい。というのも、妻が以前長くケルンに住んでいたこともあってケルンに滞在しているんですが、彼女の友人・知人に次々と会ったりしているので…。
金曜・土曜はケルン市内を観光して、日曜には Skulptur Projekte Münster 07 を見て回りました。そんで昨日月曜にはカッセルで Documenta 12 を拝見。ミュンスターのほうは駅から聖堂周辺くらいしか見る時間がなかったのですが、美術館に展示されていた1977年以来のアーカイブの展示が興味深かったです。しかし後になって、離れた場所にあったブルース・ナウマンのが非常によかったらしいと聞いてがっかり…。カッセルのほうは朝早くから行った甲斐もあって、1日だけどかなりたっぷり見ることができました。ヴィルヘルムスホーエの美術館は絵画の特別展にドクメンタが混ざってて、18世紀の絵画の間に展示されてるという感じでしたが、これはイマイチ。むしろクラシックの底力が眼に入ってくる感じで、それをかき乱すようなちょっと不愉快な展示でした。現代美術ばかり見てる人には新鮮なのかもしれませんが…。フリードリヒ美術館とノイエ・ギャラリーのほうは、比較的ストレートというか造形的な作品に良いものが多かったです。ドクメンタ・ハレは見本市みたいでちょっと…。なんとかパヴィリオンはパス。なんにしても、美術らしい美術作品に良いものが結構あったのと、アジア・アフリカ系についてはいつになったらオリエンタリズムを脱却できるんですかって感じだったな、という印象でした。また時間ができたらゆっくりかきます。
だけど、実は人に会ってるせいもあってケルンが一番アツいっていう。大聖堂のステンドグラスをゲルハルト・リヒターがやって、それが8月末に完成したのですが、これが超すばらしい。カラーチャート絵画みたいな抽象的なパターンなんですが、ほんとに良いです。で、これを批判する人々もいるんだけど、ケルンの大主教がなんと「退廃芸術」という言葉をつかって批判したそうです。んで、こんなナチ用語を使ったもんだから大騒ぎになってます。ケルンの地元紙に連日出てるだけでなく、Welt やフランクフルタ―・アルゲマイネといった全国的な新聞まで取り上げるという。面白い。
今日はデュッセルドルフに行く予定。また書きます。